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雪とけて野鳥をかえす庭の隅 淡雪
母の雛かんざし揺れし十年祭 淡雪
春光に重たきすぎの花粉かな 夏生
タンポポやひときわ土手に黄色なり 夏生
集落にゆらゆらゆらり春の風 夏生
雛の日にことよせ集ふ姉妹 陽清
思ひ出の布地手製の雛かな 陽清
いつしかに祈りとなりし雛売り場 陽清
暴風に散らずに耐へし梅の花 巴琴
花を待つ心のままに山歩く 巴琴
梅の香に沈丁花の香やかさなりぬ 巴琴
雪とけて野鳥をかえす庭の隅
「窓に突っ込んできて死んでしまった小鳥」を庭の隅に埋めて供養なさったことを「かえす」と表現なさっています。命を自然に返すやさしい心の句です。
母の雛かんざし揺れし十年祭
十年祭をネットで調べると神道の形式と分かりました。十年が過ぎた雛祭りの或る日、大事に守ってきた雛のかんざしがふと揺れてお母さんの訪れをお感じになったのですね。静かな空間の一瞬・・・
春光に重たきすぎの花粉かな
そういえば歩いていると谷間の杉が赤茶けた様子で佇んでおり、枯れかけているのかと思いきや、花房をたくさんつけていたのでした。「重たき」はそんな花房の姿と花粉症の悩みが合わされていますね。数日前の強風のあと駐車場の車をみたら赤色を黄色・・・
タンポポやひときわ土手に黄色なり
あたたかな土手に出る作者の目にはたんぽぽの鮮やかな黄色が飛び込んできました。春の喜びが「ひときわ」に凝縮されています。
集落にゆらゆらゆらり春の風
集落という言葉の語感にオノマトペの語感が調和して、うっとりするような豊かな春の風のなか、幸福感が溢れています。読んでいる私も幾ばくかその余韻を頂戴しています。
雛の日にことよせ集ふ姉妹
仲良しの三姉妹、80代を超えられてお元気です。「ことよせ」上手い表現で、集まる愉しみを少し悪戯っぽく表して幸せな交歓の景を感じさせてくれます。桜餅は欠かせません^^
思ひ出の布地手製の雛かな
ご自分でありあわせの布地で作ったお雛様。小さなそのお雛様をいまも大事に飾られています。長い年月の様々な思い出を思い起こしてくれますね。「かな」勿論感動を示します。
いつしかに祈りとなりし雛売り場
むかし、ご夫婦でお雛様を求めに札幌のデパートを歩いた時を思い出して作句なさいました。広いフロアーを雛飾りが埋め尽くしていたそうです。そして或るお雛様の前に佇んだ時にふと祈りの感情が沸き起こったとのこと。そうでした。本来が長い伝統を持った雛祭りで、お雛様は祈りの対象であったのでした。子や孫の健康や無事を祈る行事。だから、ではありませんが、お雛様には大量生産は似合いません。職人さんの心も感じられるお雛様です。
暴風に散らずに耐へし梅の花
今春は暴風の多い当地でしたが、梅の木は暴風にも負けずしっかりと花を守りました。結実まで散らさず耐えていました。
花を待つ心のままに山歩く
そのままの句。冬の裸木もいつしか芽吹いてきます。草木の花を咲かせようとする気持ちを応援しながら花の季節を待って歩きます。
梅の香に沈丁花の香やかさなりぬ
梅に沈丁花、詰め込み過ぎとお叱りを受けるのは覚悟の上で、しかし並べないことには気が済まない状況で詠みました。去年植えた沈丁花の花が開き、その上に開花している梅の香りに重なって流れてきました。至福の一瞬でした。
オマケ
カラオケの歌に花咲く句会かな
句会のみなさんとカラオケ探検してきました。楽しくしみじみとした時間。前回は山上のカフェ探訪。出歩く機会は多いほど良いと有名ドクターも言っております。ま、言われなくともわかっとるわい。
そういえば、今朝、庭で鶯の初鳴きを聴きました。一生懸命歌の練習をしていました。写真で撮ろうとしましたが無理でした。