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その時
車窓から大銀杏の落葉が風に舞う姿を見た。
それは入院していた母の病室の大きな窓の前の銀杏吹雪に同じだった。
私は
銀杏の黄金色の波を見た。
澄んだ青い波を見た。
波は音調のように留まることなく
この世を瞬時に伝播し
現れては彼方へと去り
その往還は
冥い水底に真珠貝を宿していた。
その時
私は一瞬を見たのだった。
どこにでもある
ありふれた
そして見たことのない一瞬だった。
ふと、その一瞬を拾った時
私は一瞬の意味を理解した。
ようやく辿り着いたのだと私は理解した。
木々の梢を吹き去る風が冬を知らせるように
私はそれを
諒解した。
足元の枯葉がくるりと舞った。