pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

夢の絵2

   2

 

堅物の漱石が第一夜のことだが女の夢を見た
横たわる女は長い睫の間から涙を落として死んだ
「百年待っていて下さい」

夢は反転し涙で実在と仮象がするりと入れ替わった
漱石の女は眞白な百合の花となり
百年後に月の上で邂逅を果たしたのだった


在るのは実は夢だけだ

実とは夢なのさ

母は亡くなる前にやはり涙を落とした
病院の窓の外から大銀杏の葉の金色の波が病室に押し寄せていた

薄く開いた母の目にその時何が映っていたか
大銀杏の金色の波が映っていたのか
夢が映っていたのさ

海の金色の波間に泳いでいたのさ
黄金色の稲穂の波をかき分け走り回っていたのさ
走馬燈のようにね

その時わきに座っていた私も夢を見ていたのだ
アラン・ポーの夢
薄汚れた壁に映る夢

Nevermore
Nevermore
Nevermore

終わりなき追憶の哀悼を込めて
大鴉がつぶやく

二度とない
二度とない
二度とない

そうだ
二度とはなかったのだ
いつも今が永遠だった夢だった

Is all that we see or seem
Is but a dream within a dream
But a dream within a dream?

夢のまた夢
夢の中の夢
見果てぬ夢

ポーの中で夢は反転し解離し
いや
解離ではない

ポー自身が夢に消えた
夢を見た途端に消えたのだ
壁の中に

壁の中に消えたポーを私は見たのだった
薄汚れた壁の中に
That my days have been a dream

そんな私の日々は夢だった
ポーはそう綴ったのだ
悲痛で甘美な夢だったのだ

淋しいほど
悲しむほど
夢は深くなるのさ

 

「百年待っていて下さい」

 

 

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