pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

『読まれなかった小説』今年最後の映画鑑賞

 動画 劇中を時折流るバッハ:パッサカリア ハ短調 BWV582。編曲レオポルド・ストコフスキーでかなり趣が変わっています。

 

www.youtube.com

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『読まれなかった小説』
http://www.bitters.co.jp/shousetsu/

新宿武蔵野館にて、新春3日までということで、昨日慌てて行った。「Sorry We Missed You 家族を想うとき 」ケン・ローチやシリア難民がレバノンで苦闘する映画「セメントの記憶」も素晴らしかったが、これも実に味わい深い素晴らしい作品だった。人間とは普遍性を持った時美しい。国名で差別したり卑屈になる愚を否応なく自覚させる。

優れた作品は個別的独創性と普遍性を同時に発散する。映画でも文学や美術、音楽でも同じ。

映画であるから総合的な芸術作品となり得るのを、この作品も証明した。

すべて美しい。
勿論、美しさも受ける人間によって意味や価値が変わるのだが。
例えば、ここに描かれた風景や人物・・・テオ・アンゲロプロスの手法に似ながらトルコのさりげない風景の美しさがあふれ出る。
人物も実に深い味を醸し出す。美しく描写する。

登場する女性のシーンは少ない。
少ないが・・・例えば主人公シナンの相手をするハティジェという女性が野生の梨の古木にもたれかかりながら、一瞬風に髪を愛撫されるシーンなどは、極上永遠の美。その10秒でも観る価値がある。


カフカやG・マルケスバージニア・ウルフ、チェーホフドストエフスキーニーチェ、カミユ・・・そして中国文学の雄、鄭 義もおそらくは意識されているはずだ。

この映画のバックボーンとして感じさせるそれらの作家を思うだけで失神ものである。いや至福である。
豊饒な文学を映画に融合させた。

テーマ的にはこれもまた永遠のテーマ「父と息子」である。


本来父と息子は対立する本質を抱えている。
それを一番愚劣なやり方で解消したのが熊沢だとすれば、この作品では・・・痺れるほど美しい。
(もしかすると・・・私のような卑小猥雑なオヤジにも、父イドリスのような可能性が可能性としてゼロではないと儚い期待も生まれる(>。<;)y-~ ゲホッゲホッ..)


普遍性を確立した文学者へのオマージュを普遍的テーマながらトルコの父と子という個別性に発散させる。美しいトルコの風土とともに。



末尾となりましたが、今年一年、皆様には励まされ、また楽しませて頂きました。
深く御礼申し上げ、皆様の清祥なる新春をお祈り申し上げます。

 


原題 『野生の梨の木』作家志望のシナンの小説の題名。

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