pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

冬の嵐 万葉集 詠み人しらず 3281

 

19号台風が自民党幹事長によると「まずまず」の被害で去ったわけだが、また新たな台風の発生の可能性も伝えられている。地震も活発である。そんな中で次の季節、冬もまた台風ではない「嵐」も危惧される。冬の嵐。

 

という事で冬の嵐に因んだ和歌を調べると次の歌が出てきた。

 


        万葉集 詠み人しらず 3281


吾が背子は 待てど来まさず
雁が音も 響みて寒し
ぬばたまの 夜も更けにけり
さ夜更くと 嵐の吹けば
立ち待つに 吾が衣手に
置く霜も 氷に冴え渡り
降る雪も 凍り渡りぬ
今さらに 君来まさめや
さな葛 後も逢はむと
大船の 思ひ頼めど
現には 君には逢はず
夢にだに 逢ふと見えこそ 天の足夜(たるよ)に
  

 

この和歌の形式は長歌であるというのは高校教科書にあるが、旋頭歌や短歌更には仏足石歌まで様々なスタイルを創出した和歌が後の国風文化である平安時代に短歌形式に収斂したのは何故か、ご存じの方はご教示頂ければ幸いです。

 

さて、長歌だが、この形式5757・・・577は漢詩の五言七言に通底する。古代日本語に於いても5、7は詩の形式として作りやすい言語だったのだろう。また、長歌はいわゆる詩である。57をいくらでも繰り返しながら複雑な心象事績を詠み得るわけだ。しかしながら当時中国文化は絶対的優位性を持っているので、漢詩の影響も想像に難くない。

 

この上掲の長歌にもその影響を指摘する論文が出ていた。

 

 

万葉集の雁と中国文学」京都大学國文學論叢 (2007), 18: 1-17

                   宋, 成徳

 

「三二八一番歌は季節(或いは季節の設定)が冬に近いと恩われるが、雁の音が寒いと詠むのは漢詩文の秋の雁の鳴き声を寒しと詠んだことから来た表現(注一4参照)であり、三二八一番歌の雁も恐らく秋の雁を意識していると思われる。つまり三二八一番歌も雁と女性の恋の枠から外れるものではない。最後に、「置く霜も氷にさえ渡り降る雪も凍り渡りぬ」という表現に少し触れて置きたい。万葉集で氷、或いは物が凍えると詠んだのは巻二十の四四七八番歌「佐保川に凍り渡れる薄ら氷の薄き心を我が恩はなくに」の他に見られない(人が凍えると詠んだ例は山上憶良貧窮問答歌に見られる)。三二八一番歌の霜がさえ渡る、雪が凍り渡るという表現は、日常の体験から得られるものであるとしても、秋からへの季節変化の中の、或いは秋、冬の寒さが増す中の女性の思いを詠んだ次の漢詩文との関わりを考えればやはり中国文学受容の可能性が高い。徴霜慣今集庭、鷲雀飛今我前。去秋令就冬、改節今時刻叶利剣剣劇刷、雪落令翻翻。傷薄命令寡調、内側懐AV自憐。(難文帝「寡婦賦」哀傷)風粛粛而増動、寒裏凄而弼切。霜棲棲而夜降、水謙海而展結。晦璽宇之空虚、悲扉幌之徒設。(貌丁嵐妻「寡婦賦)」

 

と見られるように万葉集の和歌は漢詩の影響下にあったことは否定できない

当時の官僚たちが精いっぱいの努力で漢詩を詠んだ『懐風藻』成立直後に『万葉集』が成立しているのを見ても当然であろう。万葉の持つ情と漢詩に詠われる情が似ているのは人間的感性が近いとともに漢詩の持つ感性も受け継いだ。それを『古今集』以降にいわゆる国風としての感性を磨きあげたと思う。いわば継承的発展がそこに見られるのだが、以前も述べたように明治維新正岡子規以降、万葉に帰れと叫んだのは国家権力の都合に阿ることと、国風を理解し得なかったことが理由であろう。その万葉に帰れコールで万葉集など一葉も知らぬ御仁たちが明治維新に原始的な野望を抱いているのは極めて危険である。粗野粗暴狂気。

 

と、まあ無知独断を交えて気晴らししてるが、肝心の長歌返歌が二つ。これも面白い。万葉の歌人は形式の中でも自由に思いを描いていたわけだ。堂々たる詩形式であろう。後世の者が真似もできない。

 

3282番(反歌
衣手に あらしの吹きて 寒き夜を
           君来まさずは ひとりかも寝む

3283番
今さらに 恋ふとも君に 逢はめやも
           寝(ぬ)る夜もおちず 夢(いめ)に見えこそ

 

冬の嵐の凍てつく夜に、却って切々たる情、熱い情が詠み込まれ、時代を越えて伝わってくる。

その情は平安末期の歌人たちによって玉の歌藻に結晶していくのだ。

 

 

万葉集の雁と中国文学」

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/137363/1/kkr00018_001.pdf

 

万葉集 長歌を鑑賞する 集歌3281

https://blog.goo.ne.jp/taketorinooyaji/e/20a0cc0b8b564d58dc7512a240fa020e

万葉集の秘密

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