pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

夜のさびしさの歌

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           1

ハサミムシの母は絶食のまま卵を抱いて逃げず闘い
孵化してこの世に生まれ出た可愛い子らに静かに己を食わせてその生を終えるという。


           2

柳田國男による「清光館哀史」という佳作がある。
そこに使われている哀という文字がこの佳作の命である。

大正年代の岩手は小子内の漁村。
電気の明かりも囃子もない、踊りの掛け声と月の明かりのなかに生が鮮やかに浮かび上がってくる。
月明かりの砂山の輝き、娘たちの一心不乱の踊る影の動き、艶やかな若い歌声。

「はアどしよそいな」

 と謂つて見ても、

    
「あア何でもせい」

 と歌つて見ても、依然として踊の歌の調は悲しいのであつた。」

清光館没落はいまや遠い昔。
その生と死の輝き
その喪失のかなしみ


         3

チェ・ゲバラが日本に来た時
外務省も碌に相手をしなかったそうだ。

   上をむいて出世しよう。

ゲバラはそんな外務省だからこそ
予定外の広島に来ることができた。

「日本国民・広島市民はなぜアメリカの原爆投下責任を問わないんだ」
「これからは広島をそして広島の人びとを愛していこう。」

素朴なゲバラの疑問と誠実は夜の闇に消えた。


素朴な疑問はこの国では言ってはいけない
着飾って香水を振りまいた言辞は祝福されるが。

素朴とはこの国の意味では「馬鹿」なのである。

      馬とは鹿である。

素朴とはこの国では従順であって初めて許される美徳である。

「貴様らの命は貰った!」と学徒兵出陣式で
明治神宮で首相が絶叫した国。
従順になるべく馬を鹿と強制された国。

        変わらぬ国。

        誰に?
    そう
「世間」に。
だからずる賢く上目遣いで右顧左眄が美徳の幸いなる国
うこさべん、と読む。
うんこしょうべんと読んではいけない。


        いま、
    原発の猛威のまえで立ち尽くす。
        だれが?


もはや想像力を喪失した群れは好機到来と
銀行員も商売人も就活の学生も走り出す。

ピカピカの先の尖った革靴で。
おそろいのリクルートスーツで。

子供らは
内部被ばく・外部被ばく

        ん?うちの子じゃないよ。

あの日から間もなく1年。
そして書き改めている今、間もなく8年。

夜の闇はさらに深く
夜の寂しさは計り知れず
さらに一人で耐える夜の寂しさは

「しかし、もうどうでもいい。僕にとって、そんな寂しさなんか、今はなんでもない。」

「そのことだけなのだ。」
「僕、僕がいま、ほんたうに寂しがっている寂しさは」


 今、闇の中で忘れられた詩人が墓の裏から呟く。

    今、闇を破いた月が煌々と墓を照らす。

        見渡せばあたり一面の墓標。


          
        4


夜の寂しさの
その底の
さらにその底に穴がぽっかりとあいているのを
見たことがあるだろう。

愛情はその穴の向こうに
やさしく広がり
さびしさとかなしみとが交互にまた重なり合い
銀色の漣がうちよせるように。

その漣のはるか水平線に向かう一筋の航跡のように
たよりないが
潮風はあなたを洗い
寄ってくる鴎のむれはあなたを祝福するだろう

         5

まっすぐにその航跡をたどれ
迷うことなく
かなしみは波のおとに消えて
さびしさはかがやく白い波の泡と消えて

海の青
空の碧
あなたの瞳の
澄んだ琥珀いろのおくに

潮風に洗われるあなたの伸びやかな肢体が
デッキの上で幸福に満たされるように
洋上の日差しははばかることなくあなたをつつみ
きこえるのは鴎達の囁くティエラ・デル・フエゴの便り


          6

さあ、行こう
プルママルカの七色の丘へ
七色の愛のその丘へと続く道は

暑く乾いてあなたをこんがりと日焼けさせそうだが
なによりしっかりと元気な足取りがいい
ふたたび強く明るくなった瞳がいい。

遠ければいいってわけじゃないが
どうだい
2万キロの航海も捨てたもんじゃない。


          7

今日やっと気づいたのだが
針も糸もなく
取り繕う方途もなく

その夜の鈍色の果てのないさびしさのなかで
その底の更にその底の穴に首を突っ込んで覗いてみたが
その破れたかすかな円い穴は

あなたへとつづく回路
あなたのさびしさやかなしみへ誘う道
あなたの幸をつなぐ途





以上、金子光晴の『寂しさの歌』から引っ張って、こんな軽い詩を作ってみました。南米は一周したいが夢で終わります。



・ティエラ・デル・フエゴは南アメリカ大陸南端部に位置する諸島。日本語に直訳すると「火の土地」

・プルママルカは、アルゼンチンのフフイ州のタンバヤ県にある七色の丘のある町。

ハサミムシの話は
https://toyokeizai.net/articles/-/314659

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