所用で大阪に来ている。
ホテルは心斎橋にある新しいホテルだ。
頼みもしないのにツィンルームの広い部屋で風呂場も広く快適だが、料金は税込み4000円。新幹線もそうだが、客の姿も殆ど見ない。旅行者にとっては有り難い。
ただコロナのせいでレストランは閉鎖、食事は近隣で済ますしかない。
夕食は焼肉屋、ここは大阪のシンボルのたこ焼き屋やお好み焼き屋がない。賃料で採算が取れない。
ホテル裏の通りに2軒向かい合って店がある。新しいのと古ぼけたのと。
迷わず古ぼけた店に入った。
若者たちが元気に働いている。
焼肉屋と言ってもホルモン中心で、私はホルモン焼きが好きなのであるが美味い店は意外と少ない。ここは美味い安いと、当たり。気取りもない。たらふく食べた。
脂っこい後の口直しにぶらぶら歩いて、これまた古ぼけた小さな茶店を見つけた。ドアを開けると薄暗い店内のカウンター席の手前に老人が座っているだけで、奥から婆さんが水を運んでくれた。
珈琲は苦味の効いたものでなかなかだ。
薄暗い店内には何やら雑貨が積まれていたり、絵画のコピーが貼られていたりと結構にぎやかだが、全体の色調が落ち着いていて、落ち着ける。
くだんの老人は見事に、微動だにせず眠ったまま。30分ほど居たが、全く動かない。
少しすると婆さんがカウンター奥の席でウトウト始めた。熟睡されるとまずいので帰る事にした。
代金はドトールより少し高いくらい。
老人は相変わらず微動だにしない。
まさか死後硬直か、という冗談は言えないが少し気になるので尋ねた。
彼はいつもこの時間、あんなふうに眠るんです。
彼女の夫であった。
2人の、時間の流れが少し止まった、古ぼけた薄暗い小さな喫茶店。
今度来た時にまた見つかるだろうか。