pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

ドゥニ・ムクウェゲ広島講演

 レイプ

これはカタカナごまかしの例の「レイプ」。元の「強姦」は使い勝手がわるいようだ。自殺を自死と言い換えさせたのも然り。日本では伊藤詩織さんの例のように政府がもみ消しさせる状況である。女性の基本的人権どころの話じゃない。


強姦に関するニュースはインドが多いが以下のドゥニ・ムクウェゲ氏らのノーベル平和賞受賞によってコンゴ共和国での強姦のすさまじさは飛びぬけている。以下のサイトはドゥニ・ムクウェゲ来日についてのまとめとなり、詳しくは開いてお読みください。堂々たる名文。以下抜粋。


http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=94743

広島における講演(全文日本語訳)

「私の人間性はみなさまの人間性と切っても切り離せない」ものだということを、心の底から今日みなさんに伝えたいです。アフリカの言葉に「ウブントゥ」という言葉があります。それは他人との関係をベースにした、団結の倫理を表すアフリカのヒューマニズムの哲学・考え方です。他人の人間性を認めることで、自動的にお互いを尊敬し合うという関係ができます。なぜならばその時点で、同じ運命の中に存在する相互依存に気づかされるからです。あなたが存在しているから私が存在できる。みなさまが負った傷は私にも響き、人間として私を深く動かすものです。


人類の歴史の中で、現在ほど、人々がお互いを必要としている時代はないとも言えるぐらいなのに、この21世紀前半で恐ろしいほどに、これまで獲得してきた人間社会の進歩に逆行して、ナショナリズムポピュリズムが再び台頭しています。これまで築かれてきた多国間関係がこの時代の流れの中で激しく試されて、人権と国際人道法が毎日のように、すべての大陸で、無視されています。他人を恐れる気持ちを煽るために、無知や無関心を育み、自らの非民主主義的な計画を推し進めようとするポピュリストを止める壁に我々がならなければいけません。目を開けなければいけません。抵抗もせずにどんどん陥ってしまいそうな、この知覚が麻痺したような状態から抜け出さなければいけません。

テロや気候変動、移民や難民といった現代社会の課題に対するグローバルな解決策を見つける必要性が、我々を集団安全保障のシステムを見直すように導いてくれるでしょう。それによって国家の主権の誤った解釈に損なわれることなく、非暴力と寛容の原則と、対話や交渉を使って解決を見つけるという原則に導かれるべきです。

この新たな戦争の兵器は従来の兵器に比べて安価であるにもかかわらず同じような被害をもたらすという意味で非常に効果的な兵器です。大量の難民・避難民を生み出し、人口を減らし、社会の組織そのものを破壊し、被害に遭ったコミュニティの経済力をも破壊します。

第1に、性暴力は集団で公の場で行われ、多くの場合は女性の体に対する拷問やその他の残酷で屈辱的な暴力をともなうため、レイプを恐れて逃れようとする人々が難民・避難民となります。あるいは、被害者はコミュニティから追い出され、男性たちは家族を守れなかった恥から村を去り、無名で暮らせるところを探し求めます。安全な場所を求めて、女性たちと子どもたちも故郷を離れることになります。これによって地方から都市部への大規模な人口移動が起こり、畑は放置されます。そこに兵士たちが入って土地を支配し、コンゴの東部にたくさんある天然資源を独占します。我々が使っている電子機器の中にあるタンタルもその資源の一つです。

第2に、人口の減少には3つの原因があります。1つ目はさまざまな道具、物質、ときにはやけどを用いた女性の生殖器の破壊が行われること、2つ目は性病、特にクラミジアや淋病を伝染させ、それによって不妊をもたらすこと、3つ目はHIVエイズを感染させること。これによって女性たちはウィルスの病原巣となり、病気は横にも縦にも世代を超えて広がり、コミュニティ全体をゆっくりと殺します。

第3に、社会組織の破壊は、自尊心と個人および集団のアイデンティティを壊す、屈辱的で人間性を失わせるような行為によって引き起こされ、最終的には社会的一体性を破壊します。このような社会への影響は、レイプから生まれる子どもがいることによって拡大されます。そのような子どもたちの親子関係がはっきりされることは稀で、「蛇の子」として扱われコミュニティから追い出されます。家族がないままに育つその子どもたちは暴力の悪循環を永続させる可能性をもった新しい世代となります。

第4に、経済力の破壊は、被害に遭ったコミュニティの所有物と農作物の略奪、家の破壊、兵士や「戦争の支配者」による天然資源と鉱物の違法な採掘によって引き起こされます。

この4つの被害によって、人々は深刻な貧困状態に陥り、社会の一体性が壊され、組織化する力を失い、逃げるか支配されるかという選択肢しか残らなくなります。

 紛争の戦略として使われるレイプは恐ろしい兵器だということを理解していただけたと思います。その被害は短期、中期、そして長期的であり、世代を超えます。残念なことに、この兵器は世界中のいくつもの紛争で使用され、女性や子どもたちが、男性たちの間で生まれた暴力の大きな代価を支払わされています。パンジ病院の中で、我々は包括的な治療モデルを開発しました。
 それは患者を中心として、4つの柱のもとで行われます。医療、精神ケア、社会経済支援、法的支援です。このモデルをワンストップ・センターと呼び、生存者が自尊心を取り戻し、苦しみを力へと変えていけるように、支援をしています。このような包括的なケアが、回復のための生存者の人権として認められるよう訴えます。しかし、2世代目の被害者、レイプから生まれた子どもがまたレイプされるという現実を見たときに、暴力の傷を治療するだけでは不十分だということが分かり、男女平等、正義、そして平和を訴える活動を始めました。

 性暴力を予防するもっとも重要な手段の一つは教育です。それは幼児期から始まり、大人になるまで続けられる必要があります。子どもたちには若い時からポジティブな男性性を教え、信念を持って、決意を持って、そして協調性を持って、男女の平等を守れるような新しい世代を育てる必要があります。

 性暴力を止めるためのもう一つの手段は、不処罰をなくすことです。これらの残酷な罪はきちんと処罰されるまで続きます。恥や汚名を被害者から加害者に移さなければいけません。20年で600万人以上の死者、400万人の難民・避難民そして、何十万人もの性暴力被害者がいる中で、暴力と悲しみを逃れた家族は一つもありません。統治国家と正義をなくしては、長期的な平和はこないと信じています。これらの理由から、我々は1993年から2003年までの間にコンゴ民主共和国で行われた深刻な人権侵害と国際法違反を記した、国連人権高等弁務官事務所によるマッピング報告書の提案が実施されるように訴えています。この報告書が9年前に発表されてから、提案は実行されないままです。617件もの戦争犯罪、人道に対する罪、虐殺の罪を記録し、治安部門改革としてコンゴのための国際裁判所や特別法廷の設立と、再発防止策を提案しました。我々が描く正義とは抑止だけを用いたものではなく、補償も含まれています。罪があったことを社会が認めるということは、被害者の回復において非常に大切なことです。それはさまざまな形をとることがあります。象徴的なものかもしれませんし、被害者の社会復帰のための支援かもしれませんし、学校の建設、被害に遭った地域のための保健所を作ることや広島にあるような記念碑を作ることも含まれます。このようなビジョンを描きながら、ノーベル平和賞の共同受賞者であるナディア・ムラド氏と一緒に紛争下の性暴力被害者のためのグローバル基金を今月10月末に正式に設立します。

 暴力がなくなるためには、長期的な平和と人権保護のために働きかける必要があります。すべての人が尊重され、居場所を見つけられるような世界を夢見ています。競争ではなく、協力があり、多国間関係の中での対話がナショナリズムや内向的な考えや弱肉強食に勝り、各国が大量破壊兵器のための予算を教育や保健といった、人々の根本的なニーズにあてるような世界を夢見ています。平和への道は可能であるだけでなく、この先、人類とこの地球の破滅を避けたければ、唯一の道でもあります。戦争のない世界は絶対につくることができます。一緒に夢を見て、一緒に行動をしましょう。市民も政治を担う人も、市民社会の団体も、メディアも、核兵器のない、化学兵器のない、生物兵器のない、兵器としての性暴力のない世界を、人間の尊厳を再確認し、すべての人のために平等と自由を。歴史をみれば、国内でも国際レベルでも平和を作るには、これ以外に進むべき道はないということは学べます。より良い世界、より平和な世界を作るために、一緒に立ち上がりましょう。ありがとうございます。」

ここまで広島講演内容。


東京大学における講演(全文日本語訳)「平和・正義の実現と女性の人権」
P35
暴力はあらゆる年齢の女性におよんでいます。非常に多くの女性が苦しんでいます。私は赤ちゃんも手術しました。いちばん若い女性は6か月の赤ちゃんです。大人によってレイプされたのです。そのために内臓が完全に破壊されています。また、高齢者では80歳以上の女性もいました。


以上、外国特派員協会(FCCJ)記者会見議事録、東大講演、広島講演の全文和訳が掲載されている。全46ページに及ぶ。それぞれの講演内容を比較すると氏の対応姿勢がわかる。

https://peaceboat.org/wordpress/wp-content/uploads/2019/12/abolition_DMukwege_2019Report.pdf

ドゥニ・ムクウェゲ氏は安部首相とも会談したが、上記を読めば相変わらず口先男であるのがわかる。もちろん安部元首相が伊藤詩織さんへの山口敬之・元TBSワシントン支局長レイプ疑惑犯を逮捕状まで取りながら上の圧力で取り消させた記憶は生々しいが、ドゥニ・ムクウェゲ氏はこんな首相に期待などしてなかったろう。

コンゴでは残忍なレイプが支配の道具として使用されていたこと。それらの犯罪者への刑罰が国連が関与しながら今も極めて不完全で、野放し状態であること、またこの武装集団が支配した地域からの希少金属を海外の巨大メーカーに売り渡した問題と結びついている。以前映画「ブラッドダイアモンド」での違法取引や薬剤治験でのひどい人権蹂躙が行われている事実があったが、いまだ欧米の収奪に喘いでいるのである。間接的関与だがやり方が異常である。


広島講演の終わりの質疑応答の結びのドゥニ・ムクウェゲ氏の言葉。

「一言だけ付け加えさせてください。今日の朝、彼女が広島で見せてくれた最後のもの、それは原爆に耐えていまも生きている一本の木でした。この木は耐えることができました。なぜなら根っこがあったからです。このことは私にとって大きな教訓となりました。そこに根っこがあるなら、それは我々の人間性にとって希望の源になるのだということです。大きな木々が今後も成長して耐えていくことを望んでいます。希望はあるのです」

この部分は上のサイト「コンゴの性暴力と紛争を考える会」の46ページの中では省略されている。見落としたのか。氏の思いを知る重要な一節を。



「なぜコンゴを血で染める戦争は続くのか?:知られざるハイテク産業の裏の顔」
https://wired.jp/2013/02/22/smartphobe-war/