pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想5

               夢 二

 

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   月いづること


 その眩暈のような天道の指し示す一瞬に二上山が確かに震えたのを僕は見た。かすかに震えたのである。その山と天との昏い境に大きな弦月が静かに顕れてきたのであった。弦月は張りつめた弦の、刃のように濡れた熱い線で、すべての波長の光を吸収する黒々した天空の幕に銀朱で切りつけるままに、悠然と眩い月光の秘色を地上に降り注ぎ、地上の闇は真昼より明るく暴かれてしまうのだった。太陽が莫大な威力で隠している万物の形象の空虚を、弦月は無数の放射する秘色の矢で音もなく射抜いて行くのであった。ありとあらゆるものを、嘘を傲慢を卑屈を残忍を貪・瞋・無明を射抜いていった。またひとり隠れ泣く他にない悲しみを。満月の到来に備え時が満ちくるそのあはれに備え、弦月はその悲しみを秘色の深みで染め上げた。そして時が満ち足りたその瞬間、すべての感情はあはれなる秘色に充たされ、すべて地上は充たされ、美神は玄妙の月光の薄絹をまとい、黒々に垂れこめる雲と畳々たる山の端から漆黒の海の彼方から、浮かび上がる満月の放つ一条の光の舟に乗り、消えたのである。その一瞬に、畳々たる山々は確かに震えたのを僕は見たのである。慟哭ではなく悲泣でもなく、啜り泣きでもなく、全ての満たされたあはれに、喪失の絶対のその永劫のかなしみに、かすかに震えたのを見たのである。

 

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