pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想46

 ・

 

 松明に照らされながら、突然舞いの一人、鬼面の男が一番幼い子の前に両手を広げ片足跳びでぴょーんと躍り出ました。子供はキャーっと叫んであの犬丸の後ろに隠れます。ほかの子たちも一斉に犬丸の周りに固まりました。泣き出す子も出ます。あらあら・・・鬼面の人も子どもたちがこんなに怯えるなんて思わなかったようです。犬丸は子どもたちを後ろにして両手を回し両足を踏ん張っています。男はそのまま子どもたちの周りを踊り始めます。犬丸も鬼に合わせて動いて子どもたちをかばいますが泣き声は止みません。すると一座全員が子どもたちの周りに集まり踊りながら何か子どもたちに渡しているのです。ああ、唐菓子です。焼き栗のお菓子を一人一人に渡しては頭を撫でているのでした。犬丸は子どもたちに泣くでない、安心なさいと声をかけています。子どもたちは次第に安心して焼き栗を受け取っています。もう大丈夫。私も安心しました。兼綱さまはじめ居並ぶ方々は笑っておられます。


 一座の皆さんは焼き栗をもらった子どもを一人一人抱き上げたり肩車したりしながら踊り始めます。また賑やかな田楽舞いの始まりですが、長い竹を二人の男が運んできました。すると舞い手が子どもを抱いたまま竹に飛び乗り竹の上で踊り始めたのでした。私もドキドキしまがら観ていました。音曲は一層賑やかです。始め、抱かれた子どもはびっくりしながらしがみついていますが、男が舞いながらなにか子どもにささやくと子どもはきゃあきゃあ笑い始めました。では参るぞ!えいやあ!という掛け声とともに男は竹の上で思いっきり飛び上がると隣に用意された竹に飛び移ります。それが六本の竹の上に、次から次へと跳び上がってはひらりと飛び移ります。子どもの歓声が庭に響き渡ります。それを子ども一人一人にしてあげます。さすがに犬丸は恥ずかしそうでしたがあっという間に肩車され竹の上を男と飛び跳ねました。

 もう子どもたちは笑顔いっぱいで田楽を楽しみました。田楽の最後は豊年踊りの歌と踊り、神への祈願で締めくくられました。引き上げる一座に、皆さま拍手してお送りします。成清は座長に褒美を与え満足そうです。明弘さまは皆さまに感想をお尋ねになりました。


「いや、楽しませてもらった。子どもが泣き出したときは一瞬焦ったがのう」
兼綱さまがおっしゃいます。

「まことよのう、あの子らが収まらなんだら座も困ったことになったであろうからな。しかし、うまく宥めたことよ」
と康忠さまがおっしゃいます。

「それにしても楽しいのう田楽は。目の前で見られるとは思わなんだ、明弘殿、お気遣い感謝申し上げる」
 競さまがその端正なお顔でやさしく明弘さまをねぎらいます。

「いやいや、それがしは皆さまに喜んでいただいたのが一番うれしいことでござるよ。たしかに一瞬緊張し申したが」

「あの子たちは人買いにさらわれた子どもたち。鬼の顔がまじかに迫って恐怖がぶり返したのでしょう」


 仲光さまがおっしゃいましたが、それは皆さまも同じように思われたこと、泣き出したときは胸が痛みました。仲光さまのお話にうんうんと皆さまうなずかれます。楽しくハラハラしながら、ドキドキしながら過ごさせて頂いたひとときでした。

 


写真 宇佐神宮