pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想48

 

「そうだ、小侍従様、文徳殿、うっかり忘れぬうちに相談なんじゃが、先ほどの田楽での犬丸よ。犬丸は元服してはおらぬよな」

 

「ああ・・・それは・・・私も彼の冠礼、いや、元服についてはつい先延ばしに・・・」

 

「いや、貴公一人で彼ら全員の面倒まで見ているのじゃ、忙しい仕事と共にな。それは無理。第一、一人でできるものではない。先ほどのう、田楽を見ていて我が子を思い出してな。そういえば犬丸の歳の頃に元服をさせたのだ。親にとってその儀式ほど嬉しいものはない。無事に育ってくれた、ようやく大人になる、そんな感慨は得難いものじゃ。そんなことを思い出しながら見ておった。犬丸め。先ほどの姿はなかなかのものじゃ。そうだ、もしまだなら犬丸の元服をしてやりたいと思ったのだ。いかがであろうかのう小侍従様。明日も当地に滞在の予定ゆえ」

 

 このような素敵な提案、私が断るわけがありません。私は娘の裳着を思い出しましたが・・・

 

「なるほど、たしかに犬丸め、両手を広げ弟たちを守ろうとした姿は健気であったな。とっさにあの態度ができるとは見上げたものよ。わしの息子でもああはできんよ」

隣でお聞きになっていた康忠さまが身振りで犬丸を真似ながらおっしゃいます。

 

「どうであろうかの、成清殿」

 

「おお、元服の儀か、よかろうの!そうかあの子か。凛々しい子じゃのう!まったく異論ない。あ、そうか、わしは神主であった!わしの専門じゃったな。あはは、わしに任せてくれ」成清は既に酩酊、赤い丸い顔・・・大丈夫か心配です。

 

 文徳さまは平伏したまま肩をかすかにふるわせておられます。

 

「我が国においても朱熹様が成人の儀、つまり冠礼の儀をしっかり復活させようとなさっておられますがなかなか浸透しておりません。それをこちらで戴こうとは・・・このようなご配慮どう感謝申し上げてよいやら・・・」

 

「いや、それは我々の感謝のしるしでもある。西行殿のお手配とはいえ、実際貴公があの子らを親同然に、いや親以上に大事に育てられたことは昨日から見てわかっておる。そんな貴公への我々の気持ちとして受け取ってくれ文徳殿」

 

 そんな兼綱さまの言葉・・・さすが源頼政さまのご子息、感じ入りました。

 

「では、明日の午の刻としよう。佃殿、まこと突然のお願いで恐縮の限りだが、どうであろうかのう。宜しいかな。佃殿にもお手数おかけするが、いや佃殿のご都合もお伺いせず申し訳ない。もちろん無理にとは言わぬ」

 

「なんのなんの、造作もない事、その準備、お任せあれ。拙者もそのような晴れがましい儀にかかわれてうれしいことでござる。おお元服の儀とは、いやはや長生きするものじゃなあ。元服の儀か!久しぶりに大忙しじゃ、拙者は平経盛様の福原にての差配役でござるぞ、福原中駆け回るでござる。どれ、腰を伸ばすか。う~~ん!」

 

 座は笑いに満ちます。もう明弘さまは相好を崩してお喜びのご様子です。

 

「仲光、清親、おぬしらにも役割があるぞ。わかっておろうな」

 そういえば清親殿は元服なされてまだ二とせほどと聞いておりました。お二人も「おまかせあれい~~~」と大仰に返事なさって笑いが大きくります。

 



写真 豊後富貴寺大堂(国宝)