pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想68

 そんな子どもたちの興奮と歓声を運んで、船は夕暮れに染まる備前の児島泊りに着きました。
 周さんが、潮の流れも風も良く、明日は備後の鞆に着けるだろうという航海長さんのお話を伝えてくれました。児島泊りのお宿はやはり清盛さまのご指示で日本と宋の船舶の宿泊用に建てられたとか、まだ杉の白木の香る大きなお宿です。
 夜は蔡さまのご招待ということで、庭に面した広間で宴席が設けられました。もちろん史文徳さまご家族も一緒のまた賑やかな宴会です。李船長さんや航海士長、操舵長さんら黄山号の面々です。ほかの船員さんたちは船の留守を預かるということで、お料理を差し入れています。座はお子さまたちが人気者でもはや花形のよう。文祐さまは文徳さまの隣ですっかり落ち着いていらっしゃいます。私の左隣に座ったつわぶきがすでに上気した面持ちで子どもたちとの船内巡りや入鹿や鯨のことを話してくれます。

「何もかも初めて・・・海も初めて・・・しかもこんな大きな立派なお船に乗せてもらって。こんなことってあるのですね、小侍従様、私はずっと佃さまのお屋敷でご奉公しているだけの人生かと思い込んでおりました。
 船の方々、皆さん親切でお優しい。片言の日本語で話かけてくれます。接してみるとほんとうに国の違いなんてたいした事じゃないなと思います。むしろ私の知る人たちよりも打ち解けやすいのです。蔡さまや船長さんの仰るとおりですね。
 海っていいなあ。心が解放される感じです。こんな感覚も初めてです。子どもたちも大はしゃぎです。初めての休みとか。それだけでも嬉しくてしようがないのに、私と同じで海や舟も初めて、目を輝かせていました。小さくても一生懸命に毎日頑張っていたんですね。でも、そうなるのかしら。文徳さまがお父さまなら」

 子どもたちの話になるとつわぶきはうっすらと涙を浮かべています。

「そうそう、菊丸という子、面白い子ですね。海を眺めながらひとり言をぶつぶつと。何を話しているのと尋ねると、入鹿の子と話してたんだと。鯨とも話したよとか」

 なるほど、菊丸はなんにでも話せる子なんですね。私には海と話していたんだと菊丸が答えてくれたとつわぶきに教えます。

「すごい子なんですね、菊丸。私、感動します」つわぶきは里に残してきた弟に菊丸を重ねているのでした。


 座は相変わらず賑やかです。そのうち腕相撲大会にまでなってしまいました。勝ち抜き戦とか。清親さまも文祐さまに奮闘されますが、宋の航海長さんにあっけなく負けて仲光さまもお顔を真っ赤にして頑張りますが「オウ!」という掛け声の航海長さんに一気に倒されます。競さまがお相手なさり、左手でほぼ互角。双方、うむむ~と唸り声をあげながら蔡さまが十を数えて引き分けです。次に右手での勝負となりこれはじりじりと競さまが優勢となり勝負がつきました。「競は右が滅法強いのです。右だけなら私も負けるかもしれません」と康忠さまが教えてくれます。都随一の弓の使い手と。最後は李船長と兼綱さまの勝負となりました。大きなお身体のお二人の勝負とあって皆さま大歓声です。子どもたちも目を大きくして拍手喝采。肘をついている台ががたがたと震えます。汗が吹き飛んでくるような戦いです。右手左手ともに決着がつかずに引き分けとなりました。

「兼綱殿、李船長、引き分け~」と蔡さまが宣言し、お二人に盃を回しながら記念として銀の虎をお渡しになりました。
 すると猿丸、あのちょろちょろとよく動く子が、僕が相手だ!と船長さんの前に出ました。船長さんは「うむ、儂と勝負とは生意気な!」と猿丸と腕を組みます。蔡さま、にこにこしながら「始め!」と号令を下すと、船長さんは三つめを数えたときに猿丸に一回転させられます。「ひゃあ、参った参った!」船長さんは猿丸を抱き上げて肩車に乗せて広間を飛び回ります。ほかの子どもたちも船長さんにぶら下がったり飛びついたり、船長さんは子どもたちの人気者でした。

 

 

 

 

 

・写真 長谷寺