pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

就活速報2


火曜日、1週間でようやく病はすっかり恢復した。天高く、秋風爽快、体調を戻す目的もあり、例の渓流散歩を楽しんだ。翌日、面接が控えていたがこれなら大丈夫。

水曜日、都内の某区役所分所に出向いた。遅刻魔としての自覚はあるので、最寄り駅に面接予定の50分ほど前に着いた。余裕じゃん(^^♪
ところが、改札口を間違えてしまった。見当をつけて歩き出したが、どうもおかしい。目印である公園が無い。

旅行に限らず、見知らぬ街に行くと迷う事があればすぐ尋ねる。昨今、下手に尋ねると不審者扱いされたりするそうだが、幸いそんな経験は無い。地元の人、表情が和やかな人、店の人、大概、そんな基準で尋ねる相手を選ぶ。何人目かで、そんな人が目の前を歩いてきた。歳の頃50前後か、買い物袋を下げている。

「あの、済みませんが、お尋ねしたい事がありまして」女性は始め怪訝そうな表情だが、道に迷った相手と分かるとすぐ柔和な表情を浮かべて、区役所への道を丁寧に教えてくれた。

「その分所は住宅地の中にあるから分かりにくいですよ。また近くでお尋ねになって下さい、お時間的にはタクシーを使った方が良いかも知れませんね」
「ありがとうございます。助かりました」
礼を述べた。

「行ってらっしゃい!」彼女は笑顔でそう言った。

行ってらっしゃい…道を尋ねて、行ってらっしゃいと言われた事は無い。「お気をつけて」くらいならある。ネクタイを締めていたので私が仕事で役所に出向く者に見えたかな。まぁ良い。しかし、この「行ってらっしゃい」は素直に心に響いた。
秋晴れに彼女の笑顔もまぶしかった。
私は再び礼を述べ手を振って別れた。

私はこれだけの事で気分が良くなる。見知らぬ街に来た甲斐があったと、そう思うのである。僅か数分であり、最初で最後の出会いである。旅行中にも沢山経験した。嬉しい事である。

面接会場には30分も早く着いた。
廊下の長椅子に男女2人待機していた。60は過ぎている男性が会場から面接を終えて出てきた。どうも元教員の匂いがする。次に待機していた男性が緊張しながら入って行った。
私は暇つぶしに隣の女性に話しかけた。

「今入った方、緊張が凄いですね」
女性は笑った。
「地元の方ですか」と話の糸口をつけた。彼女はかつてこの分所で福祉や医療保険関係の相談係だったという。しかも保母資格あり。
「じゃあ採用間違いなし!」
「いえ、貴方の方がずっと凄いですわ」
「いやいや、こちらで仕事をなさって、しかも保母資格じゃあ完璧です。万一貴女を採らず私を採用なんてするなら私は辞退しますよ」
彼女は笑い声を上げた。
私はそれは本心なのだが、冗談に聞こえる。
私は就活に必死でもない。どこか勤められれば良いだけで執着は弱いのだった。毛頭も少なくなった私は60代と思しき女性の就活を邪魔する気は毛頭無い。

面接を受けていた男性が出てきた。15分。ガチガチに緊張しながら私達に軽く会釈すると帰って行った。

女性はにこやかな表情で私に会釈して入って行った。また暇になった。スマホで趣味人サイトなど開いて無聊を慰めた。

彼女も15分で終わった。
私を見て笑顔が戻った。
「じゃあ、頑張ってください」
「はい!頑張ります!」敬礼して入って面接会場に行った。

中規模の会議室を会場にしている。
被面接者の椅子が孤独に一つ。前に4人の面接官が並んで、ずっと奥にやや年配の女性が座っている。この年配の女性は面接中に1言も発せずに私を正視していた。

「志望動機からお聞かせください」私の正面に座った面接官が質問してきた。

型通りのスタイルで面接が始まった。皆さん緊張気味であった。質問は子どもたちや、保護者、地域のボランティアスタッフへのコミュニケーションの取り方、考え方が多い。自分のかつての経験も尋ねられる。

「かつてコミュニケーションで一番困った経験は?」
「家庭訪問に行ったら親が2階に逃げてしまった事がありましたね。これではコミュニケーションの取りようがありません」

笑いが面接官に生まれた。面接官は順番に質問してきた。

「4月、入学式の後から、三者面談やりますよね。皆さんにもお出で頂いてご面倒お掛けしました。その三者面談、他の担任は長くて15分くらいですが、私は最低30分以上、長くて90分以上しておりました」
面接官はえ〜!という表情になる。
「保護者として我慢ならんでしょう、始めは。しかし、話が進むほど子どもも保護者も楽しそうになります。こちらが打ち切らないと終わらなくなる事もしばしばでした。そんな事やってましたから、全員の面談が終わるのは6月近くになります。それで生徒さんも保護者との信頼関係も生まれます。中には2階に逃げる保護者もいますがアハハ」

「巴琴さんは小学校のご経験はないですね」
少し痛いところを突いて来た。

「そう、小学校の免許も取りたかったのですが余裕全くなく、できませんでした」少し間を置いて
「あ!ありました!」
面接官は履歴書を見ながら驚いて私の顔を見つめた。
「小学生…私は4人の子を育てましたから経験はあります」

奥に座っている女性も笑った。

「では、最後の質問になります。自己PRを一言で!」

予想してなかった質問だった。私自身がこの手の質問は嫌いだったからである。

「私の年代は、自己PRは苦手なんですが…え〜」面接官が少し(ざまあみろ)という得意技顔になった。

「あ!ありました!」
「なんですか?どうぞ!」
「子どもが好き!」面接官たちは笑顔になった。
「ありがとうございました!これで面接終了です」

私が最後だった。30分経過していた。なんだよ、年寄りを面白がったかなんか知らんが遅くなったぜ。

分所をでですぐ小さな橋を渡る。
向こうから、あの面接を受けた女性が買い物袋を下げて歩いてきた。

「あら!今終わったんですか」彼女は近所のお琴の師匠さんに挨拶に行くところだったらしい。立ち話をして別れしなに、お互い採用になったら、またどこかでお会いできますねと彼女は手を振って別れた。

 

 

かくして、緊張感ゼロの面接は終わった。次を探すか^_^

これを書き終えて庭に出たら、甘い香りが漂っていた。金木犀が咲き始めたのだ。
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庭のプランターミニトマト。沢山実った。


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家の前の公園に行くと、この2人が喜んで家から跳んでくる。このようにじゃれ合ってます^_^