2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧
「佃殿、突然の元服の儀をお願いしてまことに申し訳なかったが、大変なお骨折りご苦労でござったの。思いもしなかった盛大な儀となった。しかも昨日の田楽といい先ほどの今様といい、佃殿のお心遣いにはまことに心に沁み申した。さすがに平経盛様ご家中でお…
・ 終わりの今様は恋で締めくくられました。 結ぶにはなにはの物か結ばれぬ、風の吹くには何か靡かぬ え~、風の吹くまま恋の行くまま・・・風を止めたり風の方向を勝手に変えたりはできないのと同じ、そんな意味ですと文徳さまは対面で笑いながら隣の人に歌…
・ 「さて、皆さま御神酒も召されたようですので、別室にて祝膳をご用意いたす間、今様をお楽しみ下さい。白拍子、藤白によります」と佃さまがご案内なさいます。 今様・・・都を出るときに会った祇王・祇女の今様を思い出しました。たった三日まえのことな…
・ 祝詞奏上が終わりいよいよ元服の儀の本番に入ります。広間も庭も静まり返ります。私はどなたがそれぞれの役目を務めるのか興味深々です。 髪を清め整わせるための泔坏と切った髪を収める打乱箱が仲光さまと清親さまに運ばれてきました。正式な儀・・・皆…
・ 春告鳥の呼び交わす声が近くで聴こえたようでした。そういえば旅中も聴いたはずですが今朝はその声音が鮮やかに耳朶に伝わりました。爽やかな寝覚めです。そうそう、今日は犬丸の元服の儀です。場所は平経盛さまのお屋敷とのこと、お迎えいただくまでこち…
平家の方々の別荘の並ぶ中にその湯屋がありました。宴の途中ですが湯屋の女房がおむかえに来て下さりました。もう宴は殿方にお任せです。 「今夜は湯屋にてお休みあれ。予定が変わり突然の元服の儀、おそらく朝から慌しいことになりますゆえ、まことに心苦し…
暖かくなって縁側に取り込んでおいた鉢類を庭に出した。そして縁側を掃除した時に虫の死を見つけた。数ミリにも満たないその身体の美しさに見惚れた。携帯写真でよく分からないだろうが、輝いて透き通るような純白の絹のショールをまとうかのようである。余…
・ 座はまた賑やかになりました。仲光さまと清親さまが何やら見せ合っては言い合いしたりしています。その横で競さまは知らぬ顔で給仕の若い女房と盛り上がっておられます。それはそう、彼を女性が放っておくわけありませぬ。文徳さまには昨夜のように宋のお…
・ 「そうだ、小侍従様、文徳殿、うっかり忘れぬうちに相談なんじゃが、先ほどの田楽での犬丸よ。犬丸は元服してはおらぬよな」 「ああ・・・それは・・・私も彼の冠礼、いや、元服についてはつい先延ばしに・・・」 「いや、貴公一人で彼ら全員の面倒まで見…
・ どこやらか琴の音が響いてきました。 「さあ、これから夕餉といたしましょう」 明弘さまが手を叩くと給仕の娘たちが一抱えもありそうな酒瓶をいくつも廊下に並べ瑠璃盃を高坏に置いていきます。 文徳さまがおいでになりました。 「本日も私どもをお使いく…
・ 松明に照らされながら、突然舞いの一人、鬼面の男が一番幼い子の前に両手を広げ片足跳びでぴょーんと躍り出ました。子供はキャーっと叫んであの犬丸の後ろに隠れます。ほかの子たちも一斉に犬丸の周りに固まりました。泣き出す子も出ます。あらあら・・・…
平経盛さまは藤原清輔さまとともに太皇太后宮大進として太皇太后多子さまをお支えなされていらっしゃいます。またお二人とも優れた歌人として、多子さまの小侍従として勤める私をもお歌のお導きをいただいていること、この上なくありがたいことです。 薄暮の…