pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

竹取幻想33

・「さあ、お次は……」「おいおい、まだ出るのか。いやなんとも腹が苦しいわい」競さまがお美しい精悍なお顔を崩して喜んでおられます。 「さて、お酒は紹興酒でいきましょう。お料理はトンポーロー、東坡肉でございます。猪肉、あいや、こちらでは豚肉と呼ん…

竹取幻想32

・ 袁忠さんはお酔いになられたのか涙ぐみながら喜んでくれます。それは袁忠さんの長い年月をかけたお涙と感じられます。もう、袁忠さんは御国のお料理を次々に娘たちに運ばせて居りました。「はい、糟漬ガニ、これはエビのから揚げです。」「おお、美味じゃ…

竹取幻想31

・ 「おお、そうよ。小侍従様、因んだ万葉の歌を如何でござりましょうや」 兼綱様が私に話を振ってくださいました。 千葉の野の児手柏のほほまれど あやに愛しみ置きて誰が来ぬ 大田部足人 「恋しい人を、子どもの手のように可愛い花に喩えて、旅立った若者…

竹取幻想30

・ 「貴国にもなんと美味い酒があるのか、感服いたす」競様もお喜びです。 「酒ができれば春風を生じ、美酒は樽まで芳しい、とわが国では詠われております。百薬の長どころではありません。かの大詩人・・・」 そう袁忠さんがお話しになると 「おお、そうじ…

竹取幻想29

・ 川面には風に吹かれ舞い落ちた花が流れておりました。夕餉は同行の方々とともに賑やかに過ごしました。お宿は平経盛様が一条長成様堀三郎様を通じお手配くださったお屋敷ということです。なんでも鎮守府将軍藤原秀衡様が、平泉から商いのため上京なさる方…

竹取幻想28

・ 岸辺から、ひゃう、との音が川面を貫いたように聞こえました。 一瞬の事でしたが隣にいた成清が「ひゃあ!」と叫びました。右手の小高い岸辺に数人の甲冑をまとった武士が此方を見下ろしています。 「お気づきになりましたか」 兼綱様が笑いながらおっし…

竹取幻想27

・ 舟がゆっくりと川を進んでいきます。初めての十里ほどの舟の旅に初めはこわごわの私でしたが、廻りの景色やお話の楽しさに怖さも忘れ、舟のゆらりと揺れるのも楽しいほどです。 「賀茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」そのように白…

竹取幻想26

・ 「いや、それはですな」 成清が喋り始めました。この弟、喋り始めるとなかなか終わりません。小さな目を見開いて身ぶり手ぶりも入ってしまいます。 「もう何年も前の事でござりまするがな、かの太皇太后多子様が・・・」 成清はまるで自分がそこに居たよ…

竹取幻想25

明け方に目覚めました。床の中で耳を澄ますと鴨川の流れる音が聞こえます。帳が時折の風に揺らいでいます。我が家で養生していた時もこのような安らいだ目覚めは、ありませんでした。夜な夜なの悪夢に苛まれては目が覚める日々から漸く眠りが得られるように…

竹取幻想24

www.youtube.com ・ その宵は久しぶりに寛ぎました。使いの娘が運んできた夕餉は大宮の内では見かけぬものもあります。黒い器に緑色の香り高いお茶というもの、初めて見ました。その緑の細かな泡立ちが器に映えています。 「成清様がぜひ小侍従様へと置いて…

竹取幻想23

・ 「姉さま、おつかれでございますな」 成清が人懐こい顔を皺だらけにしながら笑って言います。 「わが姉殿はお姫様〜〜都の鳥もいずちやら〜〜」なにかの今様を勝手に言い換えて歌い、今にも踊り出しそうです。 「これ、やめなさい、はしたない」とたしな…

竹取幻想22

先ほどの今様や祇王の舞いなど思い浮かべながら、花の香る風に包まれながらぼんやり思いを巡らせておりました。 鳥羽に泊まる・・・普段の旅は鳥羽から、その日の内に一気に舟で寺江まで下ると聞いておりました。弟成清が先に着いているので、せっかちな成清…

竹取幻想21

「さあ、これを」と私は娘のようなかわいい祇王に扇一枚を渡しました。武者方も遠慮するなとばかりに彼女らの手に握らせたものがありました。祇王たちがきょとんと手のひらに置かれた丸いものに見入っていると兼綱様がおっしゃる。 「そうか見たことはなかっ…

竹取幻想20

・ 羅城門を無事過ぎて、そんな話の途中のこと。 遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん遊ぶ子供の声きけば 我が身さえこそ動(ゆる)がるれ この歌は・・・いやこれは今様の歌、いま都で流行りの今様・・・私は、その美しい、清水のような若やい…

竹取幻想19

「安芸の厳島の社は、後は山深く茂り、前は海、左は野、右は松原なり」 嘗て、西行様にそのようなお話をお聞きしたことがあります。まだ清盛公が厳島社造営なさる前のことです。 厳島は当時人家なく、巫女などお仕え申す者の仮寓の住まいが簡素にあっただけ…