pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

山歩き再開

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梅雨入り以来、長雨とその後の酷暑に多峯主山歩きを止めていた。気力と体力の衰えを感じる日々だったが、今朝の青空を見ると不安はあるものの、突如歩きたくなった。

 

コンビニで握り飯とお茶を買い団地内から山に入った。
名も知らぬ小さな草花や蝶が迎えてくれる。数えていないが千回くらいは歩いた親しい道だ。木陰の道だが湿度がやや高く時折流れる風にほっとしながらゆくと坂の途中に杖をついた老人がゆっくり一段一段登っている。どうしても追いついてしまう。この道を登るのは団地内の人だ。

 

「おはようございます。お元気ですね」
「いやあ、なかなかきつくなりました」

 

訊くと78歳。退職して17年、多峯主山を登るのが日課となった。退職時体重100キロあったが今は70キロまで落としたという。

 

「実はね腎臓癌がでて手術し、胆嚢も取って、おまけに盲腸も切除したからね。体重も減るわけだよ」
と笑って言う。

 

「3000回この多峯主山を登るのを目標にしてね、あと24回で達成したら止める」

 

明大柔道部の経歴を持つ人だった。ヘーシンクに敗れた神永昭夫は見上げる大きさで挑戦どころではなかったという。なるほど、3000回という目標もこういう人だから設定するわけだ。すべて気分優先の私の発想ではない。

 

膝が痛むという。軟骨がすり減ってだめなのだと。いや、膝の周囲の筋力を鍛えればなどと言っても気休めにもならない。途中トイレに行くからお先にどうぞと言うので先に登って行った。

 

頂上で握り飯を食いお茶を飲んでいると6月以前の自分を思い出してきた。気力と体力の衰えを感じる日々だったと先に書いたが、あまりの政治の惨めさに辟易し子供らの行く末の社会に絶望していたことが大きい。しかし子供らは全力で生きている。

 

我が子だけではない。先週の日曜に定時制で担任していた生徒が久しぶりに当地で会いたいというのでランチとお茶に付き合った。一人は30歳に、もう一人は37歳になっていた。二人とも紆余曲折を経て定時制にたどり着いた連中だった。30歳の奴は無類のクルマ好きで颯爽とプジョーを乗り付け私ともう一人を乗せてドライブした。こいつは定時制時代に単車で事故を何度か起こしていた。族ではないが恐らく自棄的な闇が心の奥底にあったはずだ。転職を経ていま自動車部品の卸会社に勤めている。37歳は高校中退、自衛隊を経て編入してきた。いま電設の監督。本当によく頑張っている。カフェで私の対面に座っていた30歳が、アッ!と声をあげた。窓から外の道路を歩いていた定時制の時の生徒を発見したという。その、生徒は目の前の2階の居酒屋で働いているらしい。生徒時代は手の付けられない男だった。中学時代、ワル仲間に山中で焚き火に放り込まれた男だった。そいつが今働いている。青い山並みを眺めながらこんな事を思い出していた。

 

多峯主山を降りると向こうから先刻別れた爺さんがゆっくり汗だくで上がってきた。来月には目標3000回達成だろう。こりゃいつまでもへこたれておれんな。参った参ったと一本ふかしながら降りて行った。

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