夢の絵1
夢を見たかい
この世には裏も表もあるそうだが本当かい
在るのは実は夢だけだ
夜汽車の重い車輪の響きと汽笛の闇を覚えているか
郷愁とともに思い出したらそれは夢だ
思い出とはすべて夢なのだから
つるりと塗装された木の座席の背もたれ
車内灯の橙色が照り返す窓の下に
蜜柑が輝いていた
窓を開けて売り子さんから買ってもらったり
窓を開けた瞬間雪片が吹き込んできたり
母の膝の上で眠ってしまったり
経験は夢に純化する
そう感じないか
あの車輪の音は夢だったと感じないか
思い出がすべて夢なら
いまも私は夢なのだ
車輪のレールを軋ませる残響が今を撹乱する
車内灯の鈍い明滅が黄色い蜜柑を蠱惑し
吹雪が窓に吹き付けて女の顔が映る
微笑んだ母の顔
轟々と夜汽車が夜を突き抜け
汽笛が闇を爆発させるが
私は眠る夢の中に母の膝の上に眠る
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