pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想55

「佃殿、突然の元服の儀をお願いしてまことに申し訳なかったが、大変なお骨折りご苦労でござったの。思いもしなかった盛大な儀となった。しかも昨日の田楽といい先ほどの今様といい、佃殿のお心遣いにはまことに心に沁み申した。さすがに平経盛様ご家中でおられますな。

それから、元服の儀に参列いただいた宋の皆様、これもまた急な企てにも関わらずご参加いただき光栄至極、心より御礼申し上げる」

 

兼綱様のご挨拶に皆さま頷かれます。佃さまはうんうん頷きながら笑顔がこぼれんばかり。文徳さまのご挨拶が続きます。

 

源兼綱様、佃明弘様、ご参列頂いた皆さま、本日の元服の儀、まことにありがとうございました。私儀、日本に参ってからはや十六年になりますが、このような喜びの日を迎えられるとは夢にも思いませんでした。この子どもたちはそれぞれが艱難辛苦の日々を経て今に至ります。私とともにとてもよく頑張ってくれております。犬丸は源兼綱様に文祐という立派な名前を戴きました。これからも私ども全員頑張って暮らして参ります。どうか今後ともお見守り頂戴したくお願い申し上げます」

 

文徳さまが平伏なされるとつぎに文祐さまのご挨拶となります。

 

「皆さま、私の元服の儀をかように盛大に催していただき、ありがとうございます。私、これから史文祐として精一杯頑張っていきます。どうか𠮟咤激励のほどお願い申し上げます」

 

冠をつけ水色の水干姿の文祐さま、見違えるほど立派におなりになりました。背筋をまっすぐ伸ばして平伏なさいます。そして子どもたちも同じように平伏します。あのおチビちゃんもお兄ちゃんを見ながら真似ています。なんと可愛いこと。

 

次に皆さまの自己ご紹介が続きます。宋の方々は、博多から綱首と呼ばれていらっしゃる、なんでも宋船の船主、既に三十年以上日宋を往復し、妻も日本人とかいう方が代表しご挨拶なさいます。

 

「私、蔡光亮と申します。史文祐殿、本日はおめでとうございます。私、綱首の日本でのまとめ役を務めております。先月からこちらに所要で参っておりましたが、史文徳殿がお子の元服の儀をなさるとか、それはぜひ参列したいと押しかけて参った次第。佃様には加えて頂きまことにありがとうございます。また宮城より高貴なる女官のかたがいらっしゃるとか、恐れ多いことですがこうしてお目通りが叶うどころか祝膳にまで同席させていただき光栄至極でございます。皆様、今後とも宜しくお願い申し上げます。また他、福原の商人町宋のまとめ役、兆、同じく楊、同じく侃、同じく喬、併せまして宜しくお願い申し上げます」まことに恰幅の良い堂々たる体躯の方、

 

「さあ、お手元の料理はこの平経盛様別業の料理人がご用意させて頂きました。腕を振るって料理をお出しせよ、と申したらば、明弘様あまりに時間がありませんと叱られもうした。しかし彼も昨晩から頑張り申しました。どうぞお召し上がりくださりませ」

 

 祝杯の音頭を蔡光亮さまにとって頂き皆さま料理に箸をつけます。高坏に朱塗りの皿が並んでいますが驚いたのは真ん中に焼き魚の鯛が丸ごと置かれていること、しかも大半が煮魚やお刺身などのお魚料理で、新鮮な魚が獲れる土地柄、羨ましいことです。当地では「あまて」と呼んでおる鰈、マコガレイですとお教えいただいたお刺身は透き通るような白、美味しいこと。いや、すべてが美味しい。