pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想52

 祝詞奏上が終わりいよいよ元服の儀の本番に入ります。広間も庭も静まり返ります。私はどなたがそれぞれの役目を務めるのか興味深々です。

 髪を清め整わせるための泔坏と切った髪を収める打乱箱が仲光さまと清親さまに運ばれてきました。正式な儀・・・皆さまのお心遣いが現れました。佃さまも昨日今日の話に、衣装やら用具やらご苦労は大変だったでしょうが温厚な微笑みで見守っておられます。

 犬丸は座の中央に膝立ちで進み、打乱箱の置かれた台の前に背筋を伸ばして座ります。伸び放題だった髪が仲光さまの手によってゆっくり、さくりさくりと整えられていきます。切られた髪は清親さまによって箱に収められていきます。理髪が終わると箱が降ろされ泔坏が台に載せられます。その蒔絵の金色の模様が光に輝いています。そこでお二人は下がり、次に進まれたのが競さまでした。理髪の後の髪を泔坏の白水で清め櫛を通していきます。髪は頭上にきれいにまとめられました。一礼して競さまが下がると康忠さまが隣室より烏帽子を戴いて犬丸の脇に座りました。形はお武家さまの折烏帽子です。いよいよ烏帽子親が登場します。対面にお座りなさっていた文徳さまが立ち上がり一礼すると犬丸の前に進みます。やはり烏帽子親は文徳さまでした。烏帽子親はその名のとおり親の代わりとして契るのです。文徳さまは膝立ちのまま康忠さまより烏帽子を受け取ります。犬丸は真っ直ぐ文徳さまを凝視ています。文徳さまは一瞬頷いたように見えました。そして両手で烏帽子を犬丸の頭に置きます。後ろから康忠さまが烏帽子の位置を確かめて小結と呼ぶ紐でもとどりに結びます。文徳さまは前から位置を確認し両手を袖のなかで結び、脇を水平に上げたまま四方に礼をして戻りました。

 犬丸は神殿正面に向き直り、台は清親さまが片付けれます。ああ滞りなく清らかに終わったと私は安堵しました。有職故実儀礼に慣れた私ですが、今回はいささか緊張していました。ところが、犬丸が向き直ると兼綱さまが立ち上がり、参加した人たち、庭で見守っていらっしゃる皆さまに、一枚の紙を掲げがらお話を始めました。

「今日、ここにお集まり下された皆さまに申し上げる。おかげ様にて犬丸の元服の儀が終わり、犬丸は今日、晴れて大人の仲間入りとあいなった。皆さまお見届けの如く文徳殿は今日の日をもって正式に犬丸の親となった。そこで改名も併せて行いたい。元服後、犬丸改め、史文祐とする。文を以て世の助けを為さん」


 おお~、皆さまのお声が屋敷中に響きました。兼綱さまは一礼すると神殿にその紙を置きした。成清がその命名紙にお祓いを済ませると、撤饌の儀に入り、お供えを下げて、次はお神酒拝戴の儀に移ります。巫女が一人出てきて、神殿前に置かれた御神酒を皆さまの盃に注いで行きます。ああ美味しい!

 


写真 摩耶の滝