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イメージフォーラム
12月3日より
久しぶりにイメージフォーラムへ。
映画『百年の夢』(原題『旧世界』)
スロバキア映画
監督 ドゥシャン・ハナーク
スチール写真 マルテイン・マルテインチェク
http://www.pan-dora.co.jp/hyakunen/
言葉が表情が映像が音響が豊かな詩的響きを見る者にもたらす。
限りなく美しい。
限りなく懐かしい。
ドキュメンタリー映画だが、これほどの作品を輸出禁止とした当時の共産党政権の愚物さを思う。彼らにはおそらく本作が忌まわしい不潔なものとして目に映ったのだろう。人民の豊かな暮らし追及という権力側の金看板から見れば、その浅薄な価値観からは真逆の映像だからだ。
山岳地帯に取り残された老人たち、というのは半分当たっているが、その地に意地でも住んでいる老人たちというのが半分だ。
わずか10個ほどの卵を街に売りに行く老人。籠を落としてひび割れた卵を値切られても頑としてうけつけない。老人には「商品価値」などという概念は無いのだ。愛着がすべて。鶏も卵も同じ。住む土地も同じ。
カミさんにお金を入れないので母屋(粗末な)から追い出されてその納屋(隙間だらけ)に住んで全く反省のない老人。カネは酒代とたばこに消えるが満足している・・・
両足が麻痺して這って動く爺さんは20年かけて自力で自分の家を建てて、その一室で満足気に煙草を吹かす。
何人もの老人たちが強烈な(私が日本人だからそう感じるのかもしれない)人格の色と匂いを放つ、その人生は土の香りが溢れている。
一人ひとりがどのように生きてきたかを映画は語らない。百年近い彼らの長い困難な歴史の姿を問わない。
しかし、
「人生で一番大切なものはなんですか」という問いかけ(すごく優しい愛情に満ちた声で)に
「う~ん、難しい」と顔をくしゃくしゃにして笑いながら答える老婆や老人たちだが、ぽつりぽつりと単語で答える。
健康かな、平和だ、人間だ・・・愛かな・・悪に手を染めないことかな・・子どもだ・・・
そして彼らは答えなかったが、大事なのは住んでいる土地なのだ。
人間の最期に渇望するのは自分の故郷である。彼らにはそんな渇望は無用なのだ。
そんな彼らの言葉の背後に彼らの歩んできた歴史がある。そして自由がある。プライドがある。まことに、それは自由な人間なのだった。その代わり、笑顔の彼らは一様に歯が数本あればよいほうだ。
いつの間にか日本は老若男女問わずその存在を軽視されて今がある。その虐げられてきた結果起きる沢山の心の歪んだ犯罪と貧しい精神風景。老若男女貧富を問わず・・・
監督が優しく問う
人生で一番大切なものはなんですか。
https://www.cinemacafe.net/movies/33605/