夕会(打ち合わせ)で保護者2名が子供を登校させないと校長に宣言した旨の発表があった。このあたりの保護者の態度はやはり東京ならではか。
登校させない理由はもちろんコロナ禍である。まぁ職員室を覗いたらゾッとする。
今朝、校長がちょっとと校長室に私を連れていき何を言い出したか。
先生、ここは高校とは違うんですよ。小学校で先生の履いているサンダルは禁止なんですよ。
ちらりとそんな話を算数に聞いていたので、驚く事はなかった。何でも校長が教員になった頃からサンダルは注意されていた。理由は子供を追いかけたり非常時なりにサンダルでは不都合だという事。バカバカしいにも程があるが、
まぁ、郷にいらずんば、と言う事で、承知しました。それより校長、ずっと深刻な事で話があるんですが。と、職員室を指して言った。
あれ、酷い3密でしょう。幾ら校内の消毒や細かな対策をとっても、あれじゃ全く無駄じゃないですか?職員室でクラスターじゃシャレにもならんでしょう。
こっちが感染したら子供にも感染させる事になるでしよ。
そうなんだけどね。私も教委に言っているんだが、どうにもならないんだよ。
この校長、問題は自ら教委に伝えているというのが口癖だ。まぁ私としてはこれは一言言うべきと思っていたので、良い機会で、言っておいた。もし感染したらおおっぴらに批判し労災も可能になる。
さて、今日から再開、子供らのクラスの人数を半分に分け、午前午後3時間ずつ授業開始。お手伝いの私は保健室対応。健康観察カードに登校前に体温を記入し持参するのだが、忘れる子供の多い事。保健室前に列をなし検温し教室に行かせるのだが、既にここで3密である。アホらしい事この上ない。
女の子が1人父親と保健室に来た。父親はすぐ帰ったが、養護教諭に聞くと不登校だという。そういえばこの子は4月に一度保健室に来ていた。
テーブルに座り雑談するうちに、好きな事がお絵かきだと分かった。ノートにちょこちょこ書き始めた。ゲームの登場キャラらしい。
それじゃ先生が画用紙持ってきてあげようね、というと嬉しそうに頷く。
画用紙を与えるとスラスラと描き始めた。
しきりに私を見るので、何を描いているのか覗くと私の似顔絵である。あらら、モデルになっちまった。下手に動けない。描き終えるまで待つしか無い。こっちも退屈なので、いわゆる変顔というやつを彼女に何度か見せて構ってやったら、ニッコリ微笑む。かわいいこと。
それで出来上がったのが写真の絵。
驚いた、参った。
小学4年生。
なあ、この絵、先生に頂戴よ。
ダメ
なあ、ホント上手だよ。君凄いね。これくれよ。
ダメ!
持って帰るの?
うん。
おそらく会話に慣れていない彼女は小さくこごまった発声で、たどたどしく話す様になった。
写真撮っていい?
いいよ。
教頭が覗きに来た。これで3度目。今度は彼女を授業に導こうとした。教頭は彼女に慣れている様子なのだが、促されると彼女は部屋の隅に行ってうずくまってしまった。長身の教頭が上から言葉をかけているが、反応が無い。私が間に入った。
なあ、○○ちゃん、先生が教室に行くから、一緒に行くかな?ちょっと、例の変顔を作って促す。
彼女は立ち上がって着いてきた。
隣りの教室をサッと逃げるように早足で過ぎる。自分への負い目があるのだ。彼女の教室の入口の前で一瞬固まったが、私が手をとって中へ促すと素直に入った。授業中であるが、今日は半数しかいないのは幸いである。他の子供らは殆ど彼女を、気にかける様子もなく教員の説明を聞いている。彼女は自分の椅子に座った。教科書ノートを出させると自分から教科書を開いた。これでOK、後は担任に任せて戻った。
後でこの絵を養護教諭が職員室に見せびらかしに行った。しまったと思った。女の美術専科教諭はおそろしくプライドが高い。巴琴先生はどんな画家が好きかと前に尋ねられて、素直に、どんな画家でも!と答えたら満足しない。仕方なく、じゃ、モジリアーニと、答えるとキョトンとしていたくらいである。
絵の技量はこの子の方が遥かに高い。しまった。
案の定、職員室に戻ると彼女は無反応で目がつっていた。
彼女は潰されるかもと心配になった。小学校の教員のタイプも様々だが…専門性と反比例で、陰湿さにおいては技量が並外れているのも多いのだ。無事に済むなら良いが…
下校時、父親が迎えに来ていた。彼女は絵を大事そうに抱えていた。
今度また描いてな!そして今度は先生に頂戴よ!
彼女はニッコリ頷いてくれた。
以上、本日のレポです。実態です。
写真では微妙な陰影表現が出ませんので残念。そこまで描いています。