pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想32

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 袁忠さんはお酔いになられたのか涙ぐみながら喜んでくれます。それは袁忠さんの長い年月をかけたお涙と感じられます。もう、袁忠さんは御国のお料理を次々に娘たちに運ばせて居りました。

「はい、糟漬ガニ、これはエビのから揚げです。」

「おお、美味じゃのう、初めて食する味じゃ」
「揚げる?おおそうか油で揚げるのか、香りもよいのう・・・?これは・・・鶏のから揚げというのか。塩味か、こりゃ美味い!」
 みなさん満面の笑みで舌鼓をうってらっしゃいます。

「はい、これは羊肉と鶏肉の冷前菜二種です。高粱酒で調味しております。次はスッポンと山イモの蒸しスープです。ゴマ油と塩を中心に味付けしております。体力増強にすばらしいと成清様のご指示で選びました。」

 座は笑い声に包まれています。昨夜の話が伝わってらっしゃるようです。

「いや、そりゃ私のためではござらん!姉さまのためじゃ!」
成清も頭をかいております。

 おやおや、昨夜とは打って変わってなんとも賑やかな座となりました。お酒やお料理、初めてのお味ですがほんになんと美味しいことか。でもね、成清、お前をはじめ皆さまの楽しそうなお顔を拝見できることが私の元気の一番のもとになりますよ。皆さまは心になんの表裏もなく食事やお話に興じてらっしゃる・・・私には、このような楽しいお食事は遠い昔に我が子らと食事していた頃以来初めてなのです。

 宋の国のお料理は次から次へと出てきます。

「沢山ありますが、全部召し上がらないで結構ですよ。我が国では残すくらいが丁度良いと思われてます。お腹一杯!もう食べられない!残すのはそのしるしです」

 そう袁忠さんは言いますが、それは私たちの習慣にないこと、でも、清親殿も嬉しそうに頷いてはほおばってらっしゃいます。それにしても…私たちは肉類を食べる習慣は、いや、禁止ものです。殺生はみ仏の教えに背く、況してや食すなど…そう戸惑いがあったのですが、そんな私の気配を始めに察して下さったのは兼綱さまでした。

「小侍従様、内裏では如何か存じませんが、我ら武士、いや民もみな然程に食べ物の種類に拘りませぬ。猪や鳥、牛や魚、狩猟で得たものは頂きます。命皆等しく、それは命の輪廻であるとか、かつて西行殿にお聞きしたこともあります。手を合わせ有難く頂戴しております。ほら、僧侶も、般若湯とか言っておりますな。まあ坊主が生臭では話にならんが、薬猟とか誤魔化して実は野猪とか雉子とか狩猟しては食す事も隠れて為しおるようですが、なに、今回は宋国の料理人による宋国のお料理でござる。郷に入らずんば郷に従えでござるよ。第一、体にとても宜しいのです。」

「いやはや兼綱様には痛い所を突かれましたな。我ら神主どもは、坊さんほど戒律は厳しくござらんでなあ。酒も飲み放題、食い放題じゃあ、あはは」

 すっかりほろ酔い気分の成清も相槌を打ちながら笑います。ただ、兼綱さまのお話のなかに西行さまが出てきたのには一瞬驚きました。そういえば西行さまも元は北面の武士西行さまの広い交流が思われます。西行さまは身分やら一切関係なく誰でも等しく受け入れご相手なさる方と聞き及んでおりました。しかし、この成清、この生臭神主。でも、なんて美味しい!ありがたい・・・






写真 勝持寺裏門