pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想79

 

 

 宿所にて皆さんと食事を頂きながらひとつ話題になった事をお伝えしましょう。佐伯さまの祝詞奏上の事です。仲光さまが、あの祝詞はどうも初めてお聞きしたものかなとおっしゃいました。

 

石清水八幡宮宮司である儂はよく知っておる祝詞であるし、儂も時として奏上することもあるが、なるほどその機会は少ない。かつ、たくさんある神社もその祝詞を奏上できるのは限られてはおる。ご存じなくても不思議ではない。なあ佐伯殿」

 

「そうでござるの。仲光さまと申されたか。お若いのでご存じないのは無理からぬことです。あの祝詞はひふみ祝詞と申し上げておりますが、祝詞の中でも大変古くから伝わる霊力の強い祝詞です。奏上した祝詞を思い出していただけるかな」

 

「ふむ、確か、ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、と始まりました」

 

「そうでござる。なにか数を数えている風にも聞こえますな。また、その文言を一つずつ思い出していただけるとな、全部で四十七ある。つまり四十七音じゃ。清音のすべてを顕している。そう、ことばの有難さよな。仲光さまも天の岩戸の話はご存じであろうが、そのときに奏上された祝詞であると。天宇受賣命さまは御神舞と御神歌を披露。その際に詠われたのがひふみ祝詞であると伝わっておる。ということは、天照大神様におでまし頂く場面での祝詞ということになるのう。闇夜の世界に光が溢れたのじゃ。いやはや神代の遠い昔のことであるなあ」

 

「まこと古く尊い時代の話じゃのう佐伯殿、そう、仲光殿、今の佐伯殿のお話に付け加えればじゃが、もうお分かりかも知れぬが、ひふみ祝詞はその数を見れば万の数、すなわち万物を徴し、また四十七音の言霊を徴して、この世すべての御徴となる。まことに有難く尊い祝詞なのじゃ」

 

 成清の申すこと、私も同じ石清水八幡宮別当光清の係累のひとりなので存じております。ひふみ祝詞奏上には少し驚きましたが・・・

 

「ご丁寧なるご教示ありがとうございました。そのような強い霊力をいただく祝詞を奏上いただき心より感謝申し上げます。

 

 仲光さまは改まってお礼を申し上げました。

 

「いや、御礼など、とんでもござらん。私としては今回の皆さまのご参拝の方がよほどありがたいことじゃてな。小侍従様や源氏の方々、そして成清様の皆さまだけでもありがたいことじゃて、加えて宋の皆さままで。お子さまたちも一緒でな!先ほどの子ども達の身の上話をお聞きしてな、これは何としても清めてやりたい。未来は輝ける幸せを見せてやりたい。責任重大じゃな。これは私としても張り切って務めさせていただきたいのじゃ。しかも私的なご参拝。公のものとなればなかなか思うようなお務めはできもうさん」

 

 このようなお話をしていると、宿所の前を猿丸を先頭に子どもたちがわらわらと駆けていく姿が見えました。やはり菊丸が最後ですが両手をいっぱいに振って一生懸命ついて走っています。そのあとを少しおいて、つわぶきや文徳さま文祐さまが追いかけていきます。あら、いつの間につわぶきが。なにか可笑しい光景です。

 

 文徳さまが息を切らしながら佐伯さまに申し上げます。

「いや、なんともはや・・・子どもらが遊びたいというので構わん、すきに遊べと申したら海で遊ぶと。ああ、こら、海や浜は神聖な場所じゃ!近くで遊べ!と言ったが、既に遅し・・・私の言葉が耳に入るまえに駆け出しよって、あやつらめ、取り押さえて連れて参ります」

 

「あはは、いやいや、文徳殿、その儀に及ばず!確かに厳島は神域禁足とか申してはおるがの。なんの、子どもたちが遊ぶについて誰が異存を申すか。神様も大喜びじゃと申したろうが。もとより場所を選ばぬからこそ子どもじゃて。よほど危険な場所ならいざしらず、この辺りの浜は遠浅でな。潮の干満は大きいが波は穏やかで心配ない。あはは、海で遊びたいか!これは厳島始まって以来のめでたい出来事じゃぞ!椿事出来!こら、待て~」

 

 佐伯さまは相好を崩して手を叩いてお喜びになって、それどころか道に跳び出し子どもたちの後を文徳さまと一緒に笑いながら追いかけていかれました。

 

「なんと大らかな、そうか、我々も行くか!」と仲光さまは清親さまをお誘いして立ち上がります。

「おいおい、わしらも行くぞ」兼綱さま康忠さま競さま、皆さま笑いながら立ち上がり、一緒に、あ、私も成清を連れて一緒に浜に行きました。

 

「いやはや愉しいことよなあ、姉様。参拝だけでもありがたいことじゃが、こんな愉しみがあって良いのか、これも神様のお導きか!」

 

 鹿たちがびっくりして私たちを眺めています。

白砂の浜の向こうに、子どもたちのきゃあきゃあという歓声とともに青く煌めく海が広がります。大鳥居が全てを静かに見守っておられます。

 

 

 

写真拝借