pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

因果倶時 改稿

 因果倶時

 

    春の花風に乗りてぞわが宿に
          夢のひととき舞い散らむかな
                           


俗欲まみれのぐうたらなぼくが
言葉を一つ拾った

拾うとバチが当たると幼い時、母に言われたことがある

捨てるのはいい?

捨ててもいけない
大事になさい
お米一粒
汁一滴
大事になさい

拾った言葉はしかし拾う縁があったからであると
出鱈目ぼくは方便好き


因の中に果あり
しかして因も果も同時に同一の存在であり
存在ならば


ぼくは全てである


父母ありてのち我のあるは因果異時であるが
それよりも何よりも
父母の内に我あり我のうちに父母ありと思う方が幸福である


蓮の花に実が共時している


しずかに共鳴共振している

花を母と見れば子を実と見て
同一同体なればこその妙理は
私もあなたも全てである


なべての花よ美しくあれ
美しく咲きい出て
美しく舞い散り土となれ


春の風が旅を誘う
うたた寝の甘き春の風の中に



ひととき  あなたが視界から消え
重い雲の狂気の渦巻く中に放り込まれた
天を覆う暗い雲の層のわずかな裂け目から
時折夥しい鈍い目が焦点を捨てぼんやり浮かんでいた

サトゥルヌスの目だったのだ


二、

それは
ひととき  あなたが視界から消えただけだった
暗く重い雲が新しい春の風に吹き飛ばされ

いま茫漠たる砂丘と青空だけが残った
春の潮の香りにその先の海が見えた

そのたかだか数十年、月日が流れても
それは重い年月だったとしても

いま
梅の花が石畳を埋め尽くし
香り一面にあふれる夕暮れ
たそかれのなかにあなたが浮かんだ

ふたたびあなたを見たのだった
それで腹の底から黒い息を吐き出し
代わりに白梅の香りを腹一杯に吸い込んだのだ


三、

他と我を峻別し如何に我を見つめようが
所詮あなたを見つめるより他に何が見えようか

本当にそれは重い年月だったのか
ひとひらの花が碧の石畳に散っていく
いま、そんな重さならいい

 

四、

山に包まれた境内は静まったまま誰もいない
その静寂のなかにあなたの瞳を見た
ただどこまでもやさしいあなたの瞳を見た

鐘の音が銀の糸をひくように
その静寂と夕暮れの赤い光のなかに響き渡り

桜の花や辛夷の花や馬酔木の花が開いた
無数の花が開いた

そのときどきに花開くとき
花がささやく

あなたは我
我はあなた


五、

ひととき  あなたが視界から消え
茫漠たる砂丘と青空だけが残った
いま春の潮の香りにその先の藍染の海が見えた


いや
窓を開け放った途端に
新しい風が吹き込んで
春の海の光がまばゆく広がったのだった

 


写真 吉野

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