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「姉さま、おつかれでございますな」
成清が人懐こい顔を皺だらけにしながら笑って言います。
「わが姉殿はお姫様〜〜都の鳥もいずちやら〜〜」
なにかの今様を勝手に言い換えて歌い、今にも踊り出しそうです。
「これ、やめなさい、はしたない」とたしなめました。
「あ、いやはや、久しぶりにお会いしたものでついはしゃいでしまいましたわい。今日はこれで罷りまするで、おやすみなされ。あ、これ」
成清がそう言って懐から取り出したのは彩色陶器の小さな人形でした。
「こ の前摂津国福原を通りました時にな、いや驚きました。大勢の人夫が数千人となく大輪田泊の大工事の最中でしてな。清盛公が指揮しておられるとか聞いておりましたが、これほど大掛かりとはたまげました。何でも宋の国と盛大に商いをなさるために築くとかですが、もうあらかた出来上がっているようです。宋の商人も 完成待ちきれずすでに唐船に乗って何隻も来ておりました。その唐船といえばまるで山のような大きさ。たまげましたわい。その福原で宋の商人よりこれを姉様にと求めて参ったのです。ん?柄にもない?あはは、私とてこれくらい」
成清はそう言って私の前にその人形を置きました。手のひらの上に乗る大きさ。
「これは向こうでは唐三彩と呼ばれておるそうじゃが、今では向こうでも滅多に手に入らぬ品じゃそうです。かつて我が国が遠い昔、遣唐使を送っていた頃の品。姉様にちょうど佳いかと」
手に取ると、ひんやりと滑らかな肌に緑・赤褐色・藍の三色が沈むように漂っています。ひざ下まで下がった両袖から丸々とした手を出して胸元で組み、両側に丸髷の髪、ちょっと突き出た唇、半月の目が笑っています。なんと愛らしい。そして美しい。
「このようなものが商いされているのですか」
「それはもうあらゆる珍品お宝の山です。このような焼き物から、織物、硯や墨、筆、書籍、薬、絵画・・・なんと銭まで大量に・・・もう銭でなくては商いできませぬ。貨幣を排して久しい世でしたが、清盛公のなさる事はまさに驚天動地でござりますな」
先程兼綱様方が祇王たちに渡した宋銭、宮中にお仕えし、話には聞いていた世界が広がっていく心地がしました。
「では姉様、これから長い旅路でございます。つもる話もまたゆっくりお聞きしたく存じます。明日また参ります」
「小侍従様、どうぞ寝所でお休みくだされ、遠慮はご無用です。この頼政様別宅はこのところお泊りのまろうどもおりませぬ。はしために後ほど夕餉も持参させますゆえ、ごゆるりとおすごしくだされ」
かしこまっていた康忠がすずやかな眼差しで申します。
「そうですね、今日は佳い日です、鳥羽の地を歩きたいとも思いましたが、寝所で休ませてください。」
そう言って康忠に寝所へ案内してもらいます。