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カナダより届くラインや夏季休暇 陽清
年経りて岐阜提灯を灯しけり 陽清
父語る家紋のはなし墓詣 陽清
信州のとうもろこしだ冷凍だ 淡雪
盆終へて灯明静かひとり家に 淡雪
旱星バイク響ける夜明け前 夏生
竹取のもののあはれや蝉時雨 夏生
しぶきあげ子らの歓声酔芙蓉 巴琴
夏の花焼け跡に咲く原爆忌 巴琴
カナダより届くラインや夏季休暇
留学中の大学生のお孫さんから嬉しい連絡。女の子で猶更心配なのは当然ですが、どうしても留学したいという意思の強いお孫さんなので大丈夫、頑張っていらっしゃる。作者も携帯を新調なさってのライン連絡、新調の甲斐がありました。
年経りて岐阜提灯を灯しけり
30年来毎夏灯し続けてきた岐阜提灯。さすがに色も古びながら、その古色にも過ぎし日々が感じられます。岐阜提灯という歴史ある工芸品にも。
父語る家紋のはなし墓詣
昔、ご尊父の話として家紋を思い出された作者。今は亡き父から娘へと伝えた話をしみじみ思い出された御句です。「家紋」という語の背後にある大きな歴史が感じられます。
信州のとうもろこしだ冷凍だ
故郷の信州から届いたとうもろこしの嬉しさ。大変美味しいらしいです。「冷凍だ」というのは、ご夫君が再び入院なさっていて、そのお帰りまで取っておくということ。優しい愛情が「だ」の重複に現れています。もちろん、ご夫君の再入院へのショックを振り切ろうとなさる「だ」ですね。強い。
盆終へて灯明静かひとり家に
上・中・下それぞれが静かに響き合っている美しい御句です。
ご夫君が再び入院されて、お一人の暮らしに戻られた作者・・・「おかえりと言ふ人ありや月朧」という句を第三回で詠っておられます。
旱星バイク響ける夜明け前
旱星は夏の宵、南に赤く輝く星の名だそうです。その一つアンタレスと見れば、蠍座。蠍座とくれば
私には,宮澤賢治『銀河鉄道の夜』と結びつきます。地上では毎夏の夜中に時々涌いてくる族の残党がウルサイですが、作者は頭上遥かの天体と夜明け前というこの上ない大きな景の中に族さえいじらしい?存在と捉えられていらっしゃいます。
竹取のもののあはれや蝉時雨
私の拙作の引用ということですが、そうと限らずに読んだ方が大きな句となります。『竹取物語』をどう読むか・・・現代ではストーリー性ばかり注目されている物語ですが、作者のように、世界に冠たる美意識「もののあはれ」と受け止めれば『竹取物語』の持つ高い文学性が古典として様々な作品につながって豊かな世界が拓けるのではと思います。
しぶきあげ子らの歓声酔芙蓉
コロナ禍で子どもの姿も声も町中で消えていた日々。今夏は川で沢山その声を聴きました。ほっとします。酔芙蓉も見守っています。
夏の花焼け跡に咲く原爆忌
「夏の花」と言えば原民喜の代表作。その作品では原爆投下前の描写に夏の花が出ていましたが、踏まえた上で、投下後しばらく経った焼野原に花が再生してくれたという思いを込めました。