pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

2022-01-01から1年間の記事一覧

竹取幻想85

・ 僕は小侍従に思いを訴えた。狂おしいほどに歓喜が湧きあがる。絶望の中から。眩暈・・・その眩暈はどこから生まれたのだろう。脳の一瞬のショートよ。マザーの言う遺伝子の悪戯か。そうだった。絶望なんて言っちゃいけない。マザーを泣かせちゃいけないの…

竹取幻想84

・ 僕はいま眩暈がした。頭がくらくらして体が宙に浮いたような、目が回ったような。そして完全に虚脱した。僕のこの眩暈は間違いなく小侍従のお話によってもたらされたものだ。眩暈など僕が地球を飛び立った時以来だった。あれは生理的な現象だとマザーは言…

竹取幻想83

・ ゆっくり、白百合の香りに包まれながら、静かに私たちの話は続きます。その中でやはり私の琴の話もでてきました。先ほど私は満月の光をうけて輝く波の音を聞きながらふと琴を思い出していました。「小侍従殿、もし宜しければ貴女の琴を聴かせていただけれ…

竹取幻想82

・「貴女がこの冬、宮中を退いて病に臥せっておられるのは旅のなかでお聞きした。そして平経盛殿が貴女に厳島参拝をお勧めになったとか。あの内裏ではな、さぞかしお辛かったであろうの。女人たちも男どもも狂うておるのが多いからな。あまりにも狭く閉ざさ…

句会 蒲公英(たんぽぽ) 第二回

・ 3月15日 石垣のすきまに生ふるたんぽぽ黄 陽清春燈下越前和紙に書く便り 陽清群れふたつ着かず離れず鳥帰る 陽清ささえられ水飲む老犬春浅し 淡雪卒業をいくたびかけぬけ七十年 淡雪アルバムの若き父母うつりゆき 夏生雛だんの姉妹の愛しき藤娘 夏生春雨…

竹取幻想81

・ ふと風が吹いたのでしょうか、脇に置かれた白百合の花が一瞬頷いたように見えたのもかわいらしく思えます。 その時のことです。旅装束のまま、一人の影が回廊から歩いてきて、笠の紐を解きながら私の傍にすっとお座りになられました。「しばらく。ご無沙…

竹取幻想80

・ 厳島滞在は三日目になりました。 佐伯さまの過分なるご配慮をいただき私たち一行は船員さんや勘助さんも含めて皆さま恐縮ながらもありがたい時を得ました。もちろん子どもたちも海や山へと佐伯さま先導にて駆け回りました。 そうそう、昨日までの二夜、つ…

竹取幻想79

・ 宿所にて皆さんと食事を頂きながらひとつ話題になった事をお伝えしましょう。佐伯さまの祝詞奏上の事です。仲光さまが、あの祝詞はどうも初めてお聞きしたものかなとおっしゃいました。 「石清水八幡宮宮司である儂はよく知っておる祝詞であるし、儂も時…

竹取幻想78

「よいかの、子どもたちよ。これから神様にお祈りするのだが、お前たちも心の中で神様にお祈りするのじゃぞ。自分が神様に一番お願いしたいことを祈るのじゃ。さすれば祈りは神様に届き、いつかお前たちの願い事は成就するであろう。なに?一つだけ?あはは…

竹取幻想77

「佐伯景弘殿はな、儂が知る限りその人徳に及ぶ者はおらんの。文字通り天空海闊なるお方での。彼の陰口は聞いたこともない。実際儂は何度か会っておるが温厚篤実。神に仕える者として佐伯殿ほど相応しい者はそうはおらん。ただひたすらに神様に仕え社を守る…

竹取幻想76

終章 一 厳島記 舟のスクリーンが遠くの銀河をまだぼんやりと鈍いスペクトルで映し出している。無数の星々は相変わらず点滅しながら水晶にろ過された光のように眩くあらゆる色彩を放ち、光は舟の天蓋を流れるように滑っていく。 僕はずっと小侍従の物語る話…

新句会第一回

・ 雨戸開け又閉め過ぐる春ひとり 花眼 糸切れし手毬やそっとたなごころ 花眼 ショパン聴く窓に二月の空昏るる 撫子 待春や一筆箋に書く便り 撫子 挨拶を交わす坂道着ぶくれて 撫子 一葉の青きに逝きしたけくらべ 夏生 猫眠る庭に生えたるフキノトウ 夏生 寒…

竹取幻想75

・ 翌朝、まだ薄霧の流れる道を草露に濡れながら湊に向かいました。兼綱さまはおろか日ごろお話し好きな清親さまやつわぶきまでみな無言で坂を下りていきます。思うところがそれぞれに深いのでしょう。私も同じです。いよいよ厳島に着く・・・都を出発した時…

竹取幻想74

・ なかなかに夢にうれしき逢ふことは うつつに物を思ふなりけり 西行 まだ夕日の残照が海を茜色にそめあげ、さざ波があやに輝くなか、切串の湊を上がり島の長老のお出迎えで大歳神社に案内頂きました。「小侍従様とか、都の高貴なる方をわが賤の家にお泊り…

竹取幻想73

・ 鞆の浦を出て黄山号は鏡のような静かな海を相変わらず滑るように進んでいきます。浦を出るとまた入鹿たちが子どもたちと遊んでいます。 「夕刻には安芸の湊に着きたいものじゃのう」蔡さまがおっしゃいます。 「潮の流れに乗っておりますから速力全開で進…

竹取幻想72

・ 黄山号は仙酔島と呼ばれる島をぐるりとまわり鞆の浦に着岸しました。仙酔島・・・仙女の酔いしれる島ですか、なるほど小島ですが入り江も美しい島です。つわぶきが子どもたちに話していた物語の一つに浦島伝説がありましたが、弟の成清によるとこの島や鞆…

竹取幻想71

・ 風を受けてゆるやかに帆が張られ、黄山号は青い鏡のような海の上を滑るように進んでいきました。すっかり明るくなった空の下に遠く島々が瑠璃色の輝きで浮かんでいます。 無口島を過ぎ朝日に照らされた大海原が広がります。椅子をご用意いただいたのでず…

竹取幻想70

・ 黄山号はゆっくり夜明けの海を進んでいきます。黒い島影がくっきりと輪郭を現し、空は茜色から次第に青く明るく開けて、潮風が心地よく頬をなでています。居並ぶ方々は厳しいお顔で真っ直ぐその夜明けの海を見つめていらっしゃいます。 「そろそろかの、…

竹取幻想69

・ まだ星の煌めきが残る少し肌寒い朝に黄山号は出港しました。子どもたちがまだ寝ているので起こさないようにと静かな出港です。李船長が昨夜航海長始め主だった方々に打ち合わせした通り、船長はじめ船員さん正確に動いていらっしゃいます。両舷の櫂が静か…