pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

竹取幻想58

・ 「日本に来て以来も店に忙しく余裕はありませんでした。忙しく資金を蓄える目的は十分果たせたのですが、西行様と子どもたちとの出会いで私に欠けていた大きな問題に気づかされたわけです。人は何によってみたされるのか。それは私にとって子どもたちでし…

竹取幻想57

・ 文徳さまが私の前に座りました。 「小侍従様、今日は私どものためにお時間を戴いてまことに恐縮の次第です」 間近で文徳さまのお顔を拝見するのは初めてです。柔和な微笑と誠実さ、深い知性に惹かれた私は、この際だからと多少不躾ながらいくつかお尋ねし…

竹取幻想56

・ 賑やかになりました。次第に座もくずれ、あちこちで盃が交わされています。文祐さまも徳利片手に回っています。おチビちゃんたちは輪になって食べるのに夢中のようです。皆さま先ほどの今様の話で盛り上がっていらっしゃいます。 「日本の今様と呼ぶ、こ…

竹取幻想55

「佃殿、突然の元服の儀をお願いしてまことに申し訳なかったが、大変なお骨折りご苦労でござったの。思いもしなかった盛大な儀となった。しかも昨日の田楽といい先ほどの今様といい、佃殿のお心遣いにはまことに心に沁み申した。さすがに平経盛様ご家中でお…

竹取幻想54

・ 終わりの今様は恋で締めくくられました。 結ぶにはなにはの物か結ばれぬ、風の吹くには何か靡かぬ え~、風の吹くまま恋の行くまま・・・風を止めたり風の方向を勝手に変えたりはできないのと同じ、そんな意味ですと文徳さまは対面で笑いながら隣の人に歌…

竹取幻想53

・ 「さて、皆さま御神酒も召されたようですので、別室にて祝膳をご用意いたす間、今様をお楽しみ下さい。白拍子、藤白によります」と佃さまがご案内なさいます。 今様・・・都を出るときに会った祇王・祇女の今様を思い出しました。たった三日まえのことな…

竹取幻想52

・ 祝詞奏上が終わりいよいよ元服の儀の本番に入ります。広間も庭も静まり返ります。私はどなたがそれぞれの役目を務めるのか興味深々です。 髪を清め整わせるための泔坏と切った髪を収める打乱箱が仲光さまと清親さまに運ばれてきました。正式な儀・・・皆…

竹取幻想51

・ 春告鳥の呼び交わす声が近くで聴こえたようでした。そういえば旅中も聴いたはずですが今朝はその声音が鮮やかに耳朶に伝わりました。爽やかな寝覚めです。そうそう、今日は犬丸の元服の儀です。場所は平経盛さまのお屋敷とのこと、お迎えいただくまでこち…

竹取幻想50

平家の方々の別荘の並ぶ中にその湯屋がありました。宴の途中ですが湯屋の女房がおむかえに来て下さりました。もう宴は殿方にお任せです。 「今夜は湯屋にてお休みあれ。予定が変わり突然の元服の儀、おそらく朝から慌しいことになりますゆえ、まことに心苦し…

暖かくなって縁側に取り込んでおいた鉢類を庭に出した。そして縁側を掃除した時に虫の死を見つけた。数ミリにも満たないその身体の美しさに見惚れた。携帯写真でよく分からないだろうが、輝いて透き通るような純白の絹のショールをまとうかのようである。余…

竹取幻想49

・ 座はまた賑やかになりました。仲光さまと清親さまが何やら見せ合っては言い合いしたりしています。その横で競さまは知らぬ顔で給仕の若い女房と盛り上がっておられます。それはそう、彼を女性が放っておくわけありませぬ。文徳さまには昨夜のように宋のお…

竹取幻想48

・ 「そうだ、小侍従様、文徳殿、うっかり忘れぬうちに相談なんじゃが、先ほどの田楽での犬丸よ。犬丸は元服してはおらぬよな」 「ああ・・・それは・・・私も彼の冠礼、いや、元服についてはつい先延ばしに・・・」 「いや、貴公一人で彼ら全員の面倒まで見…

竹取幻想47

・ どこやらか琴の音が響いてきました。 「さあ、これから夕餉といたしましょう」 明弘さまが手を叩くと給仕の娘たちが一抱えもありそうな酒瓶をいくつも廊下に並べ瑠璃盃を高坏に置いていきます。 文徳さまがおいでになりました。 「本日も私どもをお使いく…

竹取幻想46

・ 松明に照らされながら、突然舞いの一人、鬼面の男が一番幼い子の前に両手を広げ片足跳びでぴょーんと躍り出ました。子供はキャーっと叫んであの犬丸の後ろに隠れます。ほかの子たちも一斉に犬丸の周りに固まりました。泣き出す子も出ます。あらあら・・・…

竹取幻想45

平経盛さまは藤原清輔さまとともに太皇太后宮大進として太皇太后多子さまをお支えなされていらっしゃいます。またお二人とも優れた歌人として、多子さまの小侍従として勤める私をもお歌のお導きをいただいていること、この上なくありがたいことです。 薄暮の…

竹取幻想44

・ ゆっくりと通りを楽しみました。 成清の申すとおり、いろんな店に珍しい宋の品物が溢れています。書画骨董や陶磁器から書籍や文具、そう、硯の見事なものも目にしました。薬も多様な種類、お酒や食材も。兼綱さま康忠さまも楽しそうにあちこちのお店を覗…

竹取幻想43

・ 寺江の、藤原秀衡さまのお宿での一夜の語らいは、文徳さまも交えてあの後も賑やかに続いたのです。その前夜にもまして楽しく嬉しいひと時でした。酔い心地のこころよさ、そんな中で皆さまは決して乱れず上下分け隔てなく、ふた心ない歓談に興じていらっし…

竹取幻想42

「貴公の店は繁盛しておる上に人手がなかろう。貴公の人品、いや失礼、見させてもろうたがなかなかの人物とみた。安心して預けられるわい。どうじゃ」 彼は真っ直ぐな視線を私にぶつけてきました。 「はい、ご覧の通り人手がありません。その子が手伝ってく…

竹取幻想41

朝、雨は上がり水色の空が見えていました。 堀景光さまに見送られながら、草にしたたる露を踏み分けて泊りまで歩きます。文徳さまは荷車二台に昨夜の調理器具や残りの食材などを乗せ、お店の若い使用人四人と一緒に運んでいらっしゃいます。見るからに幼い子…

竹取幻想40

・ 世の中は夢かうつつか うつつとも夢とも知らずありてなければ このお歌は古今集の中の一首です。どなたがお詠みになったのかは定かではありません。 夢かうつつか・・・私は、私達はその境をどう見ているのでしょうか。実はそこに境などない、「ありてな…

竹取幻想39

・あの不思議な音の波がまた押し寄せて闇を満たします。 あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな 和泉式部様のお歌が思い起こされます。 あらざらむこの世のほか・・・私はもうこの世にそうは生きてはいないでしょうね、彼岸へ旅立…

竹取幻想38

・ そうでしたか、良いことをお聞しました。 こころざし、久しく聞かなかった言葉です。以前、源頼政さまや平忠度さまに一度お聞きしただけでした。士に心と書いて志じゃ。士とは武士という意味だけではない。願いを持って前に進んでいくという意味じゃな。…

竹取幻想37

「はい、私ももうよい歳でございます。これからの自分のなすべきことを思案する日々ですが、なにか私が宋と日本に貢献できることが見つかればわが喜び他のものはありません。 一年の計は穀を樹うるに如くは莫く、十年の計は木を樹うるに如くは莫く、終身の計…

竹取幻想36

・「そうでございましたか。文徳殿、まさにいたる所の青山あり是る処の青山 骨を埋む可しの人生ですな。感服いたした。」競さまが盃を傾けながら仰います。「先ほどの清親が吟じた『涼 州 詞』、あの詩を文徳殿は泣けてくると申された。万感の思いが詩句から…

竹取幻想35

・「お尋ねしてよろしいですか。史文徳殿はなぜ我が国を選んだのですか。貴国は西に西陵、吐蕃や天竺、北に金、高麗、南には大越など多数の国と接していますが。」 宿の差配役の景光さまが居ずまいを正してお尋ねになります。「はい、歴史書の勉学やらもして…

竹取幻想34

・「しかし・・・なんだな・・・袁忠・・・お主・・・ただの料理人ではないな・・・」 康忠様が盃を飲み干しながらそう語り掛け時、座が一瞬静まりました。兼綱様は直垂の襟を正しながら袁忠さんを見詰めますが、お顔は微笑んでいらっしゃるようにも見えます…

竹取幻想33

・「さあ、お次は……」「おいおい、まだ出るのか。いやなんとも腹が苦しいわい」競さまがお美しい精悍なお顔を崩して喜んでおられます。 「さて、お酒は紹興酒でいきましょう。お料理はトンポーロー、東坡肉でございます。猪肉、あいや、こちらでは豚肉と呼ん…

竹取幻想32

・ 袁忠さんはお酔いになられたのか涙ぐみながら喜んでくれます。それは袁忠さんの長い年月をかけたお涙と感じられます。もう、袁忠さんは御国のお料理を次々に娘たちに運ばせて居りました。「はい、糟漬ガニ、これはエビのから揚げです。」「おお、美味じゃ…

竹取幻想31

・ 「おお、そうよ。小侍従様、因んだ万葉の歌を如何でござりましょうや」 兼綱様が私に話を振ってくださいました。 千葉の野の児手柏のほほまれど あやに愛しみ置きて誰が来ぬ 大田部足人 「恋しい人を、子どもの手のように可愛い花に喩えて、旅立った若者…

竹取幻想30

・ 「貴国にもなんと美味い酒があるのか、感服いたす」競様もお喜びです。 「酒ができれば春風を生じ、美酒は樽まで芳しい、とわが国では詠われております。百薬の長どころではありません。かの大詩人・・・」 そう袁忠さんがお話しになると 「おお、そうじ…