pakin’s blog

主に創作を主体とします。ただし、人権無視の最たる原発問題や、子どもの健康や命を軽んじる時事問題には反応します。

竹取幻想66

・ 船は潮風を受けながら銀の波濤を割って進んでいきます。あの右手の浜が須磨です。まもなく左手の淡路島を抜けて行きます、と周さんがお教えくださいます。ああ、あの源氏の君が過ごした須磨・・・ 生ける世の別れを知らで契りつつ 命を人にかぎりけるかな…

竹取幻想65

・ 「お船は楽しい?」と聞くと首を縦に振って、「うん、楽しい」と答えます。 何が一番楽しいと聞くと、「みんな!綱登りもやったよ!」と元気に答えながら、「一番はねえ・・・」と言って口ごもります。 「何?教えて、知りたいな、菊丸が一番楽しいことは…

竹取幻想64

・ 子どもたちの声が下から聞こえてきます。手の空いた船員さんに案内してもらっているようです。見ると甲板の帆柱に集まっています。複雑な帆縄の操縦の話に真剣に耳を傾けているのですが、そのうち一人がお話に飽きたのか、帆縄にぶら下がるとするすると登…

竹取幻想63

・ 貴方・・・はるか天空の彼方におられる貴方に、飽きられずお聞きいただくには私のまことに拙い話で心苦しいのですが、小侍従と呼ばれたこの私の、ただの女房にすぎぬ私の人生の中で、僅か数日の間の、儚くしかし私にはかけがえのない経験を、ほんとうの喜…

竹取幻想62

・ 結局私は勧められるままに清盛さま湯屋に出航まで泊りました。なんともあの湯浴みの魅力には抗いがたいのでした。兼綱さまがおっしゃられた、癒されよという事の意味を初めて知ったのです。ありがたいことです。本当に、私は皆さまのおかげで身も心も軽く…

竹取幻想61

・ 「文徳殿、また突然の話で申し訳ないが。ご存じのように私どもはこれから厳島神社参拝に参る。先ほど小侍従様と話したのですが、如何かな。我らとともに参拝されては」 兼綱さまがお話になられますが、それは私からさきほど兼綱さまに相談したことなので…

竹取幻想60

・ 「貴国での生活で安全が保障れていたとは良かったな。まずは一番の不安だったろう。しかし、子供らにとって異国、たしかに幼い子まで大勢引き連れて行く不安は大きいだろうの。文祐は分かるだろうが、幼い子に、至る処青山有りとは言えぬからな。しかしな…

竹取幻想59

・ 「申し訳ありません。理屈ばかりこねて。なに、簡単に申せばこの子らが可愛くてしようがないというだけの話した」 文徳さまは照れ笑いです。 いえいえ、貴重な良いお話を頂いて嬉しい限りですよ。これほどまでに心惹かれるお話はありましょうか・・・西行…

竹取幻想58

・ 「日本に来て以来も店に忙しく余裕はありませんでした。忙しく資金を蓄える目的は十分果たせたのですが、西行様と子どもたちとの出会いで私に欠けていた大きな問題に気づかされたわけです。人は何によってみたされるのか。それは私にとって子どもたちでし…

竹取幻想57

・ 文徳さまが私の前に座りました。 「小侍従様、今日は私どものためにお時間を戴いてまことに恐縮の次第です」 間近で文徳さまのお顔を拝見するのは初めてです。柔和な微笑と誠実さ、深い知性に惹かれた私は、この際だからと多少不躾ながらいくつかお尋ねし…

竹取幻想56

・ 賑やかになりました。次第に座もくずれ、あちこちで盃が交わされています。文祐さまも徳利片手に回っています。おチビちゃんたちは輪になって食べるのに夢中のようです。皆さま先ほどの今様の話で盛り上がっていらっしゃいます。 「日本の今様と呼ぶ、こ…

竹取幻想55

「佃殿、突然の元服の儀をお願いしてまことに申し訳なかったが、大変なお骨折りご苦労でござったの。思いもしなかった盛大な儀となった。しかも昨日の田楽といい先ほどの今様といい、佃殿のお心遣いにはまことに心に沁み申した。さすがに平経盛様ご家中でお…

竹取幻想54

・ 終わりの今様は恋で締めくくられました。 結ぶにはなにはの物か結ばれぬ、風の吹くには何か靡かぬ え~、風の吹くまま恋の行くまま・・・風を止めたり風の方向を勝手に変えたりはできないのと同じ、そんな意味ですと文徳さまは対面で笑いながら隣の人に歌…

竹取幻想53

・ 「さて、皆さま御神酒も召されたようですので、別室にて祝膳をご用意いたす間、今様をお楽しみ下さい。白拍子、藤白によります」と佃さまがご案内なさいます。 今様・・・都を出るときに会った祇王・祇女の今様を思い出しました。たった三日まえのことな…

竹取幻想52

・ 祝詞奏上が終わりいよいよ元服の儀の本番に入ります。広間も庭も静まり返ります。私はどなたがそれぞれの役目を務めるのか興味深々です。 髪を清め整わせるための泔坏と切った髪を収める打乱箱が仲光さまと清親さまに運ばれてきました。正式な儀・・・皆…

竹取幻想51

・ 春告鳥の呼び交わす声が近くで聴こえたようでした。そういえば旅中も聴いたはずですが今朝はその声音が鮮やかに耳朶に伝わりました。爽やかな寝覚めです。そうそう、今日は犬丸の元服の儀です。場所は平経盛さまのお屋敷とのこと、お迎えいただくまでこち…

竹取幻想50

平家の方々の別荘の並ぶ中にその湯屋がありました。宴の途中ですが湯屋の女房がおむかえに来て下さりました。もう宴は殿方にお任せです。 「今夜は湯屋にてお休みあれ。予定が変わり突然の元服の儀、おそらく朝から慌しいことになりますゆえ、まことに心苦し…

暖かくなって縁側に取り込んでおいた鉢類を庭に出した。そして縁側を掃除した時に虫の死を見つけた。数ミリにも満たないその身体の美しさに見惚れた。携帯写真でよく分からないだろうが、輝いて透き通るような純白の絹のショールをまとうかのようである。余…

竹取幻想49

・ 座はまた賑やかになりました。仲光さまと清親さまが何やら見せ合っては言い合いしたりしています。その横で競さまは知らぬ顔で給仕の若い女房と盛り上がっておられます。それはそう、彼を女性が放っておくわけありませぬ。文徳さまには昨夜のように宋のお…

竹取幻想48

・ 「そうだ、小侍従様、文徳殿、うっかり忘れぬうちに相談なんじゃが、先ほどの田楽での犬丸よ。犬丸は元服してはおらぬよな」 「ああ・・・それは・・・私も彼の冠礼、いや、元服についてはつい先延ばしに・・・」 「いや、貴公一人で彼ら全員の面倒まで見…

竹取幻想47

・ どこやらか琴の音が響いてきました。 「さあ、これから夕餉といたしましょう」 明弘さまが手を叩くと給仕の娘たちが一抱えもありそうな酒瓶をいくつも廊下に並べ瑠璃盃を高坏に置いていきます。 文徳さまがおいでになりました。 「本日も私どもをお使いく…

竹取幻想46

・ 松明に照らされながら、突然舞いの一人、鬼面の男が一番幼い子の前に両手を広げ片足跳びでぴょーんと躍り出ました。子供はキャーっと叫んであの犬丸の後ろに隠れます。ほかの子たちも一斉に犬丸の周りに固まりました。泣き出す子も出ます。あらあら・・・…

竹取幻想45

平経盛さまは藤原清輔さまとともに太皇太后宮大進として太皇太后多子さまをお支えなされていらっしゃいます。またお二人とも優れた歌人として、多子さまの小侍従として勤める私をもお歌のお導きをいただいていること、この上なくありがたいことです。 薄暮の…

竹取幻想44

・ ゆっくりと通りを楽しみました。 成清の申すとおり、いろんな店に珍しい宋の品物が溢れています。書画骨董や陶磁器から書籍や文具、そう、硯の見事なものも目にしました。薬も多様な種類、お酒や食材も。兼綱さま康忠さまも楽しそうにあちこちのお店を覗…

竹取幻想43

・ 寺江の、藤原秀衡さまのお宿での一夜の語らいは、文徳さまも交えてあの後も賑やかに続いたのです。その前夜にもまして楽しく嬉しいひと時でした。酔い心地のこころよさ、そんな中で皆さまは決して乱れず上下分け隔てなく、ふた心ない歓談に興じていらっし…

竹取幻想42

「貴公の店は繁盛しておる上に人手がなかろう。貴公の人品、いや失礼、見させてもろうたがなかなかの人物とみた。安心して預けられるわい。どうじゃ」 彼は真っ直ぐな視線を私にぶつけてきました。 「はい、ご覧の通り人手がありません。その子が手伝ってく…

竹取幻想41

朝、雨は上がり水色の空が見えていました。 堀景光さまに見送られながら、草にしたたる露を踏み分けて泊りまで歩きます。文徳さまは荷車二台に昨夜の調理器具や残りの食材などを乗せ、お店の若い使用人四人と一緒に運んでいらっしゃいます。見るからに幼い子…

竹取幻想40

・ 世の中は夢かうつつか うつつとも夢とも知らずありてなければ このお歌は古今集の中の一首です。どなたがお詠みになったのかは定かではありません。 夢かうつつか・・・私は、私達はその境をどう見ているのでしょうか。実はそこに境などない、「ありてな…

竹取幻想39

・あの不思議な音の波がまた押し寄せて闇を満たします。 あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな 和泉式部様のお歌が思い起こされます。 あらざらむこの世のほか・・・私はもうこの世にそうは生きてはいないでしょうね、彼岸へ旅立…

竹取幻想38

・ そうでしたか、良いことをお聞しました。 こころざし、久しく聞かなかった言葉です。以前、源頼政さまや平忠度さまに一度お聞きしただけでした。士に心と書いて志じゃ。士とは武士という意味だけではない。願いを持って前に進んでいくという意味じゃな。…